Epilogue
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【Epilogue】12/10(木):放課後 回青中学校>チューセー君
(それは丁度、ウォームアップと基礎練を終えて体も十分に温まった頃だった。本格的に冬を迎えた体育館は大分冷え込み、きっちりと閉じられた扉が開く音、そして寒気が流れ込むのが来訪者の合図となる。「チュース!!!」一斉に大きな挨拶が為されたのを聞けば誰がやって来たのかは明白で、皆よりも一歩遅れて振り向いた男は挨拶の代わりに「おせーぞオヤジ」と不遜な態度を。けれどそれが誰かの耳に届くより先に、安西がいつもの調子で笑いながら「皆に伝えたいことがあります」と話し始めたのでお咎めもなく。)――ジキ新入部員…? ってことは…(そして春には後輩となる中学生達の名を最後まで聞き終えることなく、桜木は話の途中で走り出した。それは想定内の行動だったのだろう。引き留めたところで集中できず使い物にならないだろうと判断されたか、咄嗟に名を呼ぶ者は居ても本気で行く手を阻もうとする者はおらず、一応の制止を試みる大声も長くは続かなかった。背中にかかる「迷惑だけはかけるなよ!」という声ははたして誰のものだったか。晴子の声でないことだけは確かなら振り返る必要はなく、体育館を出てすぐ、)…! よーへー! いいところに!!(練習を見学に来た水戸と出会えば、「どーした花道」と「バイク乗せてくれ!」二つの声は綺麗に重なり、新たな疑問符を浮かべさせる前にその腕を引いて――その後、急ぐなら電車の方が早かろうと藤沢駅まで送ってもらい、そこから先は一人で電車とバスを乗り継いだ。もちろんそんな金はなかったので水戸に借りて。)……って、チューセー君、まだ学校いんのか…?(そうして無事に回青中学校の正門前まで辿り着いたものの、その先の目的地を知らぬことに気づいて立ち止まる。部活終わりにはまだ少し早い時間だが、引退した3年生ともなれば何かしらの用事があってさっさと下校していてもおかしくない。ぱらぱらと校門から出てくる生徒たちをじい、と見つめて暫し。もしかしたら本人か、あるいは合宿で知り合った部員の誰かを見つけられるのではないか。だがそんな期待も虚しく、ジャージ姿の目立つ赤頭に「え、なにあれ…」「不審者…?」「しょうほく……って高校生?」ヒソヒソと話し声と訝しむ視線ばかりが増えていく。)なあ、おめーらチューセー君を知らねーか?(仕方ないので手あたり次第声をかけてみるも、結果は芳しくない。皆一様に怖がって逃げるか、「知りません」と首を振るか。それもそのはず、いつもの癖で彼のあだ名を呼んでしまっているのだから。)バスケ部の、ひょろっとしてて、猫みてーな目の…(その事実に気づくのが先か、いくつか並べ立てた特徴に該当者が絞られるのが先か、それとも当人が校門にやって来るのが先だろうか。いずれにせよ目的の人物と出会えるまで帰る気はないのだから、)チューセー君!(10日ぶりの再会を果たすやいなや、半ばタックルの勢いで彼に抱きつき、叶うならばそのままひょいと抱き上げてみせただろう。)はっはっはっ、1031倍のご利益はすごかろう! この天才のコーハイになる気分はどうだ?
* 11/19(Sun) 01:36 * No.274