EVENT2
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【2】11/6(金):午前 湘北高校
(合宿6日目。桜木花道の朝は早い。それは同室となった彼が一番よく知るところだろうが、遅くとも毎朝5時には目が覚めて、食事までの1半時間ほどを自主練に費やしている。彼が寝ているならば起こすことのないようにそっと部屋を出ていき、そうでなければ住まいの中で交わされる「おやすみ」と「おはよう」が未だに新鮮な男は嬉しそうに挨拶をして。──その後は共に食堂で朝食をとり、学校まで遠い彼が先に出発するのを見送ってから自主練を再開する。それがここ数日のルーティーンだったのだが、今日はいつもよりゆったりと朝食をとり、朝の支度をしていられる。と言っても制服を着て、部活で要り様のものしか入っていないバッグを背負うだけなのだから5分もかからないのだが。)一日タイケンニューガク……って、昼までは何して過ごしてもいーんだろ? 午前は授業も出なくていいなんて太っ腹だよな。(とはいえ合宿所から一番近い高校に通う自分たちも8時過ぎには出発しなければならない。サボりは許さんと昨日赤木に念押しされたからだ。しかし高校のオススメスポットは体育館か屋上と答える桜木に適当なプランなど練れるはずもなく、)チューセー君は何してーんだ?(合宿所から徒歩で湘北に向かう途中、素直に彼の希望を聞くことにして。ちなみに午後の授業見学は数学と英語の予定なので、天才の勇姿は見せてやれそうにない。)
* 9/18(Mon) 23:34 * No.96

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(正直に寝起きが宜しくない男なものだから、早朝の覚醒までには幾らか時間を要している姿を彼の前に晒しているに違いない。4時半に目覚ましをかけ、その音が鳴り響く前に自らの手で時計の電源を落とすまでは良いものの、起き上がりから覚醒までに要するのは数分の時間。覚醒し切ったところで彼が起床していれば「おはようございます」の挨拶はきっちり投げて、そうでなければ朝の静寂に一人浸ることもあるだろう。覚醒し始めにあわせ行うストレッチは、いつしか身体に染み付いていたルーティーンだ。バスでの通学よりかは徒歩を選ぶから、合宿所を出るのはおのれの方が彼よりも幾分か早い日々を過ごしていたものの、今日ばかりは普段よりも余裕があるのは――彼の高校へ、見学に赴くことが決まったからだ。)授業を聞いたところで、俺にわかることの方が少なさそうですけど。うーん……湘北がどんな高校か、雰囲気は見たいと思っています。練習の見学はさせて頂けるって聞いているので――参加もして良いんですかね?一応、色々持ってきたんですけど。(纏うのはあくまで己が所属する中学の制服で、その姿のままに校内見学に臨むつもりであるのだけれど。仮にバスケ部の練習が見学のみならず、参加も叶うというのであれば着替え等の用意も必要かもしれないと、スクールバッグに詰め込むのはTシャツやタオルといった備えである。流石に備品を借りることは躊躇われたが故の判断だ。)
* 9/20(Wed) 21:25 * No.100

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まーな。(彼が高校の授業を聞いたところで、という意見には同意しかない。自分とてよくわからん授業を中学生が聞いて楽しいはずもない。授業風景を眺めるだけなら5分もあれば十分だろうと頷いて。)湘北がどんな高校か……んじゃまあ、テキトーに歩き回ってみっか。(そしてざっくりとしたリクエストを受け取れば、結局プランなんか練ることもなく行き当たりばったりの学校案内となるのだろう。現に「参加はしてもいーって聞いたぜ。ゴリが言ってたから間違いねえ」と本日のメインイベントともいえる部活動見学について答えたなら、早速部活に出たくなって、湘北高校に辿り着いて真っ先に向かったのが体育館だ。此方もまた久しぶりの部活のための荷物でバッグはぱんぱん。芯の折れた鉛筆はバッグの底に沈んでいる。)つーわけで、ここがいつも使ってる体育館だ。(午前中に体育で使う予定でもあるのだろうか、幸い鍵は開いていた。ためらいもなく中に入ればいそいそとバッシュを出して履きだし、彼を振り返って「どーよ」と自慢げに。普通の県立高校の体育館。設備が整っているわけでもなくこれといって特筆すべき特徴もないけれど、やはり母校のそれは愛着ゆえか実家のような安心感がある。キユッキュ、とバッシュが床を擦る音が心地よかった。)な、せっかくだからちょっとバスケしてこーぜ。(ゆえにそんな提案を一つ。もし彼が湘北に進学するのであれば、此処が一番長い時を過ごす場所となる。朝のホームルームに参加しろとは言われていなかったので、案内という名目で遊びたがった。真面目な彼が渋るようなら「ぬ……ダメなんか?」とあからさまにしょんぼりしてみせたろうし、あるいはすんなり了承が得られるようなら「話がわかるな! サスガチューセー君!」と気安くその肩を叩いたろう。)
* 9/22(Fri) 01:19 * No.105

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(練習への参加は思いのほかあっさりと許可が出たものだから、寧ろ拍子抜けのような。「そうなんですね」と驚いたような相槌を打ちながらも、道行く中で見回すのは慣れない高校という雰囲気だろう。物珍しそうに彼方此方へと向けていた視線が一点に止まったのは、彼の足が止まったがゆえだけれど。そのまま見据えるのは体育館の入口で――彼が足を踏み入れる姿を見届けたのち、屋内を覗き込むようにしたのなら。他の誰の姿もないことを良いことに、おのれもまた取り出すのは普段遣いのバッシュだろう。カンガルー革のそれは購入当初こそ記事の固さが目立っていたものの、長らく用いることですっかりおのれの足に馴染んでいて。今ではアッパーはそのままに、すり減ったソールのみ交換することで過ごす月日を重ねている程度には、バスケットボールと向き合ううえで欠かせない存在だ。入口付近に鞄を置かせてもらうこととしたのなら、彼に倣う形でげ体育館の中央まで。バッシュが床を擦る音は、何度聞いたところでいつだって落ち着くBGMのひとつだ。)……何します?1on1は、やってたのバレちゃいますかね。汗だくになっちゃうでしょうし。(本来であればしっかりと、勝手な体育館の使用につきそれとなく注意を促すべきであるということは理解しているけれど。初めて訪れた高校の体育館という場所、誰にも見咎められることのない状況。何より、目の前に立つのは過日のインターハイで鮮烈な印象を残した選手が立っているとなれば、一人のプレイヤーとして断る術など持ち合わせていなかった。肩を叩かれたことには小さく笑って、「ダンクは見てみたいかも」とおのれには出来ないプレーを彼へ強請ってみよう。後輩らしく殊勝な態度で。)
* 9/23(Sat) 01:08 * No.107

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(見慣れた彼のバッシュが体育館の床に置かれたのが了承の合図となれば、)ぬ? バレたら合宿所からここまで走って来たって言やーいいだろう。(のちにバレることを気にする真面目な彼とは対照的に、下手な嘘で誤魔化す気マンマンの男は「そんなことより」とノリのいい後輩の肩を叩いて喜んだ。話が分かる後輩はいい。)なに、この天才のダンクを見てみたいとはお目が高いな!(それに可愛げもある後輩だ。得意のダンクを所望されれば一段とご機嫌になって笑声とともに体を大きく震わせた。)よし、天才のスラムダンクをその目に焼き付けておくよーに!(そうして早速バスケットボールを取りに倉庫に入れば、「はっはっはっ!」高笑いとともに出てくる時にはもうドリブルを始めてゴールに向かって走り出す。ダムダム、と人気のない体育館にボールの弾む音が響くと、まるで数か月前に戻ったみたいだ。早朝や休み時間に一人きり──いや、あのときはハルコさんがいらっしゃった。そう、そして見事なダンクを決めたオレにキャースゴイワサクラギクン! と歓声が──)ぐあ…!?(リハビリは完璧に終えた。衰えた肉体も普通の練習やミニゲームには耐えうるまでに回復した。失われた技術はまだ完全に戻ったとは言えないけれど、少なくともディフェンスが居ないゴールにダンクするくらいは可能だった。ゆえに此度の失態はひとえに集中力が掛けていたからに過ぎない。叩きつけたのはボールではなく自分の額。バックボードとの衝突。そんなところまであの頃の再現をしなくてもいいだろう、と内心呟いたのは、なんとか受け身をとって床に転がってのち。)イッテー!!(しかし大声を出して額を抑えつけたものの、一連の流れを見守っていたであろう彼の視線に気がつき、)…ハッ、ち、ちげーぞチューセー君! これはだな! エンシュツ……そう、エンターナントカの天才によるカレーな演出だ…!!(大慌てで騒げるくらいには、幸い古傷に影響はないようだった。)
* 9/23(Sat) 20:07 * No.108

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見られたりしてませんか?誰かに。俺と桜木さんが、普通に登校してるとこ。ほら、桜木さん、目立つじゃないですか。(含む意味は諸々に、彼が冠する赤い色は何処でだって目立つ色合いに違いないから。彼の存在もまた、人の視線を集めるには十分すぎるとも思うからこそ。加えて言うならば、おのれの存在も高校という場に於いては本来であれば不適切であるということも理由に挙げられる。)好きなんですよ、ダンクを見ることが。俺には出来ないので……だからですかね?したいとは思わないんですけど、その分見たいというか。(彼のように上背のある選手であれば、容易くリングにボールを叩きつけることも出来るのだろうとは予想に易い。一旦倉庫へと向かった彼が戻ってきた際、その手にバスケットボールが在ることを確認すれば、そのまま視線は為されるプレーを目に焼き付けんとするだろう。耳に馴染むボールの跳ねる音。体育館の床を擦るバッシュの音。ゴールへ向かい走る彼が踏み切って、)…………え、(凄い音がした。想定していたリングを揺らす音ではなく、彼が着地を決める音でもなく、大きなものがバックボードへとぶつかって、そのまま床へと落ちる音。何が起きたのかを理解するまでに要した時間は一瞬で、慌てて彼へと駆け寄ったのなら床に転がる彼の顔を覗き込むように。)大丈夫ですか?痛めたところは?……演出ならいいんですけど、演出で怪我しちゃ駄目ですよ。立てます?(差し出した手を取られたところで、彼一人をしっかり起き上がらせる為に踏み止まることが出来るかは試してみなければわからない。――山王戦の、湘北という高校を全国区の高校であることを知ら占める要因となった一戦を知っている。ルーズボールへ向かって飛び込んだ選手が交代を経て、試合終盤に放ったボールが描いた放物線の結果のスウィッシュも、それがブザービーターとなった一連のことを知っているからこそ。普段は動かぬ表情筋に、心配の色が乗せられることとなるのは道理である筈だ。)
* 9/24(Sun) 01:36 * No.112

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(痛みの度合いで言えばこれくらい慣れたものだ。元キャプテンの強烈な拳骨や試合中の無茶なプレーによる衝突に比べれば蚊が止まったようなもの、とは言い過ぎだが。心配そうな眼差しと差し伸べられた手を交互に見遣れば、)ぬ……ダイジョーブダイジョーブ。アイアンボディ桜木、このくらいの衝撃なんて大したことねー。(返したのは強がりではなく本音だった。現に腫れた額のたんこぶがひりひりするくらいで痛みは治まりかけている。ただ、彼の手を借りずとも一人で起き上がることは叶ったが、揶揄するでも叱るでもない純粋な心遣いにばつが悪くなってふぬ、と力ない声をもらせば、なんとなくその小さな手を頼りに立ち上がった。お礼の代わりに「あのよぉ…」と呟いて、その後離された手が所在なさげに頬を掻く。)これリョーちんとかミッチーにはナイショな。あとゴリとメガネ君にも。みんな心配すっからよ。…あー、なんだ。ほら、みんなこの天才がカワイくて仕方ねーらしい。ま、人気者のシュクメーって奴だな!(彼らが聞けば「誰が」と総ツッコミを受けるに違いないが、彼の口から伝言される可能性は低いだろう。インターハイ2回戦、リアルタイムでその試合を見たものでなければ事件の詳細などわかるまい。彼が桜木の怪我についてどの程度知っているかはわからなかったが、無用な同情は要らぬとわざとらしい大声で締めくくれば、ナハハと笑う勢いで誤魔化したつもり。)──さて。今のは演出だからな、もう1回やってやろう。ただしせっかくだからチューセー君、ディフェンスやってくれねーか。そしたらムダなこと考えねーですむ気がするぜ。(そうして二度目の正直を。それにどうせ叩き込むなら無防備なリングよりも相手がいた方が張り合いがあると考えれば、観客席から彼をフィールドに引っ張り出そうと。)
* 9/25(Mon) 00:00 * No.114

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(あの試合で彼の身体に生じた異変の正体を、その結果を、正しく知るのは彼のチームメイトたる彼らであるに違いない。当人に尋ねたところで、それこそ後輩に弱さを吐露するような人でもないだろう。同様に、彼らに尋ねたとしても部外者においそれと公言するような人達には到底見えなかったから、結局のところ中世古に紡げる言葉など高が知れているに違いない。――それでも、手が取られれば安堵する。おのれのそれよりも遥かに大きな掌が重なったのならば、ぐいと力を込めて彼が立ち上がる一助となればいいのだが。)言わない方がいいのなら、言いません。心配を掛けたくない気持ちはわかるので……あ、でも。もし少しでも痛むようであれば、宮城さんには伝えた方がいいと思います。(彼がそうと願うのであれば、その意向に従う姿勢は見せるつもりであるけれど。同じ背番号を背負う者として、仮におのれの知らぬところでチームメイトが身体のどこかを痛めたと知った時に、気が付かなかったことを後悔する気持ちは何となしにわかるものだから。彼が彼らにとって可愛い後輩であるのだろうと同じくらい、大切な仲間であることも確かであることは、チームメートとのやり取りを見ていれば容易に知り得ること。)……止められる気、全然しないのがすげえ。お手柔らかにお願いします。(齎された提案には小さく笑って、続けた言葉が了承の意。誰より間近で目にすることが出来ることを僥倖と感じる一方で、身長差もさることながらパワーの違いが一目瞭然となる身からして、「次はディフェンスしてくださいね」とちゃっかり1on1に縺れ込むことを期待しよう。彼のようなパワープレイは出来ずとも、培った基礎による外からシュートには一日の長があるとの自負が、少しだけ。)
* 9/25(Mon) 20:02 * No.115

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ぐぬ……痛かったらそーする。(こういう時、怒るにしろ囃し立てるにしろ騒ぎ立ててくれる相手ならそれに乗っかっていられるのに、こうも落ち着いて正論を言われると反応に困ってしまう。しかし彼もまた宮城と同様にキャプテンという肩書き以上のものを背負っていることを思い出せば、やや不満げにとがった唇は形よりも素直な返事を紡ぐことに。それに、純粋な心配はこそばゆいばかりではなかったから。)わははははは! そうだろうそうだろう! ま、この天才を止められなかったからと言って落ちこむことはねーぞ。チューセー君もなかなかやるみてーだが、天才は一日にしてならずって言うからな!(彼のバスケの実力はこの6日間でわかってきた。小柄で細身ながらなかなかいい動きをする。だが、単純な一対一のパワー勝負ならば桜木の方に分があった。それはディフェンス側に回っても同じこと──と思っていたのだけれど、力や高さに任せた真っ向勝負から一歩引かれた駆け引きには反応が遅れる場面もあるのだろう。ただし当人はそんな未来をちらとも描かず、「よかろう」とただ一言自信満々に言ってのけるだけ。そうして彼と向き合う1on1は桜木ボールから始まった。以前の単調なオフェンスから比べるとシュート前にフェイントを入れるのも大分うまくなってきたけれど、)これが二度目のショージキって奴だ!(今回ばかりはリクエスト通りスピードとパワー、そして得意の跳躍を披露する。彼がいいディフェンスをするほどにそれを上回ってやろうと躍起になって──気がつけば渾身のダンクがリングを揺らしていた。まともに跳んで張り合おうとすれば相手が吹っ飛んでしまいそうなくらい勢いのあるダンクは、彼に良いところを見せたい、だなんて下心ではなく彼に勝ちたいという素直な欲求に従った結果だ。──てん、てん、と転がったボールの行方を辿り、拾い上げて振り返ってのち、)どーだチューセー君。うれしかろう!!(と胸を張ったのは、煽りでも何でもなく、彼がダンクを好きだと言ったから。天才の見事なダンクを間近に見られて嬉しくてたまらないだろう、とその反応をうかがう瞳は爛として。)
* 9/26(Tue) 01:46 * No.117

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うん。そーしてください。(思いのほか素直な返答が彼の口から紡がれようものならば、安堵したようにこちらは僅かに表情緩めて見せるだろう。おのれの知るところで彼が身体を痛めたとして、仮にそれを誰にも告げずにいるというのであれば。のちに不調が目立った際には彼にとってのキャプテンへと進言することも辞さなかっただろうけれど、そうとはせずに済むらしい。)俺は全然ですよ、チームの中でも並な方で。単に4番を貰っただけです。桜木さんはバスケ、始めて1年も経ってないんですよね。(「やっぱり天才なのかな」としみじみ紡ぐ言葉は、彼とおのれとの身体能力の違いを大いに感じるが故だろう。高い背に厚い身体。瞬発力もさることながら、足腰も強いと見ている。技術は研鑽次第でいくらでも培うことが叶おうとも、生まれもったそれは正しく彼に与えられたギフトと呼ぶに相応しいから。――それでも、多少は抗うことも出来るのは、それこそ重ねた年月によるか。真っ向勝負となれば五分五分にも至らない一方的な展開となるのは当然で、だからそうとはさせない小細工は普段から意図して見せることもあるプレー。目線で為されるフェイントには引っ掛からず、時折スティールが成功することもあるだろうか。結局は運動量の差で横を抜かれて、ゴールのど真ん中へとボールを叩きつける様を、一番の特等席で見届けることとなるのだろうけれども。)……すげ、(二度目の正直。言葉の通りに今度こそはと為されたそれは、試合中であれば何より盛り上がったプレーとなるに違いなく。観客がおのれ一人であるこということを、何よりの贅沢と感じるべきだろう。向けられた視線には頷きひとつ、)うれしいです。もっと見たいくらい。(まっすぐな肯定を彼へと返そうか。そのまま両手でパスを求める動作をすれば、彼が拾い上げたボールをこちらへ投げてくれるのを待つ心算。それを待ってからスリーポイントラインへと歩みを進めれば、軽い動作でボールをリングへ向けて放とうか。何度も放ってきたスリーポイントシュート。彼の先輩より精度は劣るだろうけれど、ディフェンスも何もないフリーの状況で、外すイメージすら抱かぬまま。)
* 9/26(Tue) 21:59 * No.120

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(翔陽戦、海南戦、陵南戦、山王戦。まなうらによみがえる記憶の数々。ダンクは桜木にとってバスケの象徴だった。──そして今、無我夢中で叩きつけたボールの感触。勝利の高揚もそのままに、たった一人の観客の反応を求めれば、)……はっ、(大歓声はなくとも静かなる肯定、彼なりの大賛辞を与えられ、静寂を喜色に満ちた呼気が揺らした。「うむ、くるしゅーない」なんて偉ぶってみても眦は下がったまま、へへ、と素直な笑みがこぼして。)そらよ!(それから彼の両手が求める形を察して手中のボールを投げつけた。オフェンスとディフェンスが入れ替わる。さあ来い、簡単には抜かせん。そんな心持でディフェンスの体勢を取ろうとした瞬間、オフェンスを始めると同時に彼がボールを放ちやがった。──そう、いつか見た先輩と同級生の1on1を思い出す。気負いなく放たれたボールはだからこそ彼の体に染みこんだシュートなのだとよくわかった。桜木のように言われたフォームを意識して、一つ一つ頭と体で思い出しながら打つシュートとは全く異なる動きだった。)……ハッ!(気づいたときには軽やかにネットが揺れる音がして、振り返れば先ほどよりも軽くボールが転がった。てん、てん、と。駆け引きの間も与えられなかったのだ。)……ず、ズリー!!!(だからこそ、称賛の前に思わず大声で彼を指さす。だって悔しかったのだ。あっという間のスリーポイント。)ズリーぞチューセー君! オレまだディフェンスの準備してねーのに! ルカワか。ルカワに教わったんかそのセンポーを!(今ならぎゃあぎゃあと駄々をこねた三井の気持ちがよくわかる。それでいて先日の対仙道の時のように「マグレ」だとは言えなかった。それに相手はカワイイコーハイなので、最初こそ何もさせてもらえなかった憤慨に体を揺らしていたけれど、次第に「ま、シュートはなかなかうめーじゃねーか」「この天才の油断を誘うとはとんでもないサクシなのでは?」などと独り言を重ねるうちに落ち着きを取り戻していって、)やっぱチューセー君は見込みがあるぜ。湘北に来いよ。(最後は随分とラフな勧誘で締めくくった。まあ話を変えて勝敗をうやむやにしてやろうという企みもあるにはあったが、十割本音だ。)
* 9/27(Wed) 01:48 * No.121

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(背も足りなければジャンプ力もなく、バスケットゴールとの距離は常に一定。寧ろ近付くよりも距離を置いて、ラインの外より放つ方が近しく感じるのだからバスケットボールは面白い。それでも、彼のように直接ゴールリングにボールを叩きこむことが出来ればと、憧れる気持ちはプレイヤーとしては誰もが抱くそれではないだろうか。「また見せてくださいね」と重ねて強請ることは忘れずに、「出来れば試合中に」とも続けておこう。そうして求めた手へと彼よりボールが齎されたのなら、放つシュートは定まった弧を描いてリングへ吸い込まれていくに違いない。放った時に入ると確信を得たままに、ボールの行方を見届けたなら。)……っふ、はは、あはは!(勢いよく指を差す彼に声を上げて笑うのも仕方がないだろう。してやったり、とまで言うつもりはないものの、意表を突くことにはどうやら成功したようだから。ただ、「流川さん?」と首を傾げたのは、戦法に思い当たる節がなかったからこそ。果たして答え合わせは彼の口からなされるだろうか。お褒めの言葉には「ありがとうございます」と素直に礼を述べておこう。)――直球だ。(まっすぐな言葉には思わず笑みも零れよう。とはいえすぐに結論を出せる話でもないものだから、明確な答えを紡ぐまでには至らない。合宿の開始から一週間、まだ全ての高校の姿を正しく知るには程遠いと思うからこそ。とはいえ日々の生活を共にする同居人の存在が、進学先の選定に大きく関わることとなるだろうのは、当然といえば当然だ。彼を通して触れる湘北の面々や日常は、興味を惹かれる理由としては充分だからこそ。)桜木さん達が居るバスケ部は、毎日楽しそうだと思いますよ。(楽しいだけではないことも理解の上で、けれど楽しそうだという気持ちが先立つのは、他でもない彼の為人に触れる日々を過ごしているからだろう。彼も、彼の周囲の人達も。湘北高校のバスケットボール部の魅力を、この合宿中により知ることが出来ればいい。)
* 9/27(Wed) 20:14 * No.123

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わ、笑うんじゃねー!(成功を喜ぶ笑声はあまりに軽やか。ゆえに揶揄されたと憤慨したわけではなかったけれど、間抜けな己が浮き彫りにされたようで声は荒げたまま、当然過日の1on1を知る由もない彼の疑問には「ルカワも同じようにズルしやがったんだ、ミッチーにな」と答え合わせにしては随分と雑な返事を紡いで。そうして独り言が次第に会話らしい会話と成る頃には興奮も沈下し、思いつくままに未来のルーキーを勧誘すれば、)おうよ。オレは直球の桜木だからな。(彼の一言に対して何も考えないまま頷いた。その笑顔から察するに、多分褒められたのだと思ったから。そして続く好感触の感想を耳にすれば、途端にほわっと喜色の花を周囲に咲かせ、)そうだろうそうだろう! チューセー君もこの天才バスケットマンと過ごす毎日にスバラシイ刺激を受けていると見える! 湘北に来れば合宿が終わっても毎日オレとバスケができるぞ! ナハハ!!!(嬉しさを大きな手のひらに乗せて彼の背をばんばん叩いた。実際、この1週間ほどで彼とはそれなりに親しくなったつもりでいた。三井に勧誘の鬼と大口を叩いた手前もあるが、それ以上によく知らない生意気な後輩が来るくらいなら素直で可愛げのある彼の方がずっといいと桜木自身かなりその気になっていたので、)よし、この天才が直々にスイセン文を書いてやろう! エンピツならたしか…(唐突に壁際に置いた荷物を漁りだし、そこに沈んだ剥き身の筆記具を引っ張り出して、)そうすればもみんなチューセー君に一目置くにちがいねー。楽しいぜ湘北は。カントクは太った置物みてーなオヤジだが、あれでまあまあ話はワカルしよ。(それから雑に畳まれてくしゃくしゃになっていた何かのお知らせを発見すれば、ちょうどいい紙があったとその裏に何やら書き連ねつつ、)なんてったってマネージャーが最高だ。アヤコさんとハルコさんと言ってな……特にハルコさんはこのオレをバスケと出会わせてくれた天使…いや、女神と言ってもカゴンではねー……ハッ、言っとくが惚れるのはダメだぞチューセー君! 時期キャプテン命令だからな!(浮かれた頭に描く明るい未来計画に一点の懸念を見出すまで、楽しげに彼の入部を確かな未来として語るのだろう。その証に、)ほら、できたぜ。(『チューセー君をバスケ部にスイセンします 天才桜木花道』――その紙の正体が、バスケ部の連絡網とも知らぬまま。)
* 9/29(Fri) 14:12 * No.126

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(同じような戦法を取る選手が他にいるらしいことを知ったのなら、「その人とは気が合うかもしれません」と緩く笑っておくこととしよう。当のふたりのやりとりは、この合宿中に目の当たりにすることが出来ればいい。様々な意味で吸収をさせてくれそうな人達であると、彼から齎される情報からも容易に解することができるものだから。)……俺はどちらかといえば、目立たずに生きていたいタイプなんですけど……。楽しいなら、ちゃんと考えたいと思います。安西監督でしたっけ?お噂は聞いたことがあるので、機会があればご指導いただきたいと思ってたんです。(練習に参加することが叶うというのであれば、かの安西監督と言葉を交わす機会を得ることもできるだろうか。彼が何かの紙に文字をしたためている様子を見届けながら、耳を傾けるのは連ねられる湘北高校バスケットボール部に関する情報である。二人いるらしいマネージャーのうち、片割れにあたる相手に彼が多少以上の思慕を寄せているらしいことを理解するには十分すぎる言葉が並べ立てられたのなら、「惚れませんよ」と笑って手を横へと振っておこう。目にする程度のことはしたいものの、惚れるに至らないだろうとの確信が自らの中にあるのは単純な理由だ。バスケ以外のことを考える余裕がまだないから。誰かにそうした感情を抱いた経験がまだないから。学年の差こそ一学年でありながら、人を想う気持ちを持ち合わせる彼はきっと、おのれよりも遥かにおとなであるのだろう。――そうして、記された文字へと視線を向けて。瞬いた瞳がそれを確認したのなら、)……“チューセー”で、通じますかね?(今更ながらの疑問をひとつ、彼へと投げてしまうこととしよう。今でこそ彼の中でおのれの名前は“チューセー”で定着しているようだけれど、全員が全員、そうと認識しているわけではないような。むしろ彼が大声でおのれの名を、そうと呼んでくれることで広まる認識はあるかもしれないけれど――果たして彼の中におのれの正しい名前は存在しているのだろうかとの疑問は、答えが齎されるかどうか。それが連絡網となる紙であることを知った頃には、皆より呼ばれる名前も統一されていたかもしれない。)
* 10/1(Sun) 23:50 * No.130