EVENT3
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【3】11/17(火):午前中 食堂 

(バスケ漬けの毎日は純粋に楽しかった。持ち前の気安さで他校生はもちろんのこと中学生たちとも交流を深め、バスケ以外の時間も充実した日々はあっという間に過ぎ去ってゆく。気がつけば合宿も折り返し地点をとうに過ぎていた。)だあー!!!(食堂の一角を陣取り頭を抱えて叫んだ男の眼前、テーブルの上にはバスケばかりにかまけた日々と同じだけ積み残した学生の本分が。文系理系を問わず一般教養のほか、美術や音楽の課題も在った。それは長いリハビリ生活の間、学校を休んでいた分の課題も含まれている。合宿前は練習量をセーブしていたこともありコツコツと取り組んでいたものが、この合宿期間にまるまる放置され気づけば膨れ上がっていた。となれば、どれから手をつけよう、というレベル。せっかくの休校日、バスケ三昧だと喜んだ男の首根っこをしっかり掴んで衆人環視付きの食堂に放り込んだ元キャプテンは、同じく元副キャプテンと受験勉強に忙しいらしく静かに自室で勉強中。ただし後で様子は見に来るからなと釘は刺された手前、何一つ進んでませんは許されない。さてどうしたものか。好きな教科なぞない。得意な家庭科の調理実習なら実技で済んだから良いとして、こういったワークの類はすぐに飽きてしまうのだ。)ヨシ、とりあえず楽そーなのから片付けるか。(そうしてやっとのこと手を伸ばしたのは美術の人物画の課題。スケッチブックに人物の絵を1枚描けばいいだけなのだから適当に済ましてしまおう。まだ午前中も早い時間、真面目なメンバーは自室で自習か、多目的ルームで勉強会か。ゆえに食堂に居る者は少ない。桜木の監視をお願いされた食堂のおばちゃんたちとて暇ではないので、次に食堂にやって来たラッキーボーイが居たならば、扉を開けて早々「はっはっはっ、おめでとう! キミはこの天才のモデルに選ばれました!」と大声で呼びかけてやるつもり。)
* 10/2(Mon) 10:53 * No.131

(気がつけば11月も半ば。合宿をはじめてからもう半月も経過している事実に月日の経過する速さを改めて感じたこの頃、季節外れの雪が空を舞っていた。都心の雪への対応力の低さはなにかと感じていたが、昨晩より降り続いているらしい雪は雪遊びが叶うほど地面を白く染め上げていたのだから朝にカーテンを開けた折は驚いたものだった。加えて学校も休みとなれば朝から晩までバスケし放題だと思ったのだがそうは問屋が卸さず、結局は室内に缶詰で勉強会を開くことと相成った。勉強は好きか嫌いかでいえば間違いなく後者だが、成績は中の中、もしくは少し上くらい。赤点の心配はまったくない平凡のラインを往く男だが、大人しく机に座っていられる時間は限られている。自習とあらば尚更だ。高校生を交えての勉強会、大半が机に真剣に向かっている中で突如がたりと席を立ちあがった長躯に向く眼差しは少なくはなく。)……ちょっと飲みもん買ってきます。(などと、言い訳がましい言葉を残して部屋を後にしたのが少し前。このままバックレることも考えたものの高校生の眼がある以上は戻らざるを得ず、適当に時間を潰してから戻ろうなどと考えながらわざわざ食堂の自販機までやってきたのだが。)は? ……え、モデ……なんスか?(扉を開けた瞬間、まさか声を掛けられるとは思わなんだ。当然なにを言われたのかも殆ど頭に入らず、声の主に訝し気な眼差しを向けてしまう。目付きの悪いゆえ、ともすると睨んでいるようにも見えるだろう。)……つーか桜木サン、こんなところでなにやってるんスか。ひとりで。(机の上に広げられたものをみれば勉強をしているだろうことはわかったものの、何故に食堂なのだろうと浮かんだ疑問を投げてみた。)
* 10/2(Mon) 21:05 * No.133

(選ばれし者の名は洒落た髪型が特徴的な──エットナントカ。)おお! えーと(正しくは江藤良であったが、生憎その髪型の名を知らぬので適当なあだ名をつけて覚えることも出来ない脳みそを許してほしい。とはいえ当人は彼の名前がするりと出なかったことを気にも留めず、ナハハと無駄に機嫌よく笑いながら「こっちこっち!」と手を振った。ちなみに彼の眼つきなど本物の不良たちと比べれば可愛いものだ。眼鏡を外した時のメガネ君とそう変わらん。)何って、見てわからんかね? ベンキョーに決まってるだろう。(そうして彼が歩み寄って来たならば、問いには机上の課題たちを「ほれ」と指さし。ただし何も始まった気配はない。)ったく、ゴリの奴、「お前はうるさい上に集中力がないからな、他の者に迷惑をかけないよう一人でやってろ」とか言ってオレを此処に放り込んでよ。そのうえ食堂のおばちゃんたちに「すいませんが、あのバカがちゃんとやってるか時々でいいんで気にかけてやってください」とか言いやがって……あー、思い出したら腹が立ってきたぜ!(そうは言うものの、元キャプテンの物真似を顔つきまでそっくりこなすのだから彼に気にかけられている事実そのものは満更でもないのだろう。言葉ほど怒った風でもなく、「てなわけでよ」と続けた声のトーンもあっけらかんと。)オレの課題のモデルになってくれ。(そうしてスケッチブックを抱えながら、「なんでもいいから人間を描けって」と言い添えれば美術の課題であることは伝わるだろうか。)ま、ゴリじゃモデルはつとまらねーからな。なんてったって人間じゃねーからよ。ぷぷっ。(そして自分の発言にウケるのに忙しい男はろくな指示も出さぬくせ、彼の反応次第では「おい、モデルってのなんかイイ感じのポーズとかとるもんだろ」などと早速理不尽なダメだしをするのだろう。)
* 10/3(Tue) 01:55 * No.136

(ちなみに髪型は所謂スリックバックと呼ばれるものであるけれど、まさか江藤を『えーと』と呼ばれるとは思わなんだ。されど訂正も面倒ゆえに突っ込みを入れることはなく、上機嫌に笑う様相を見遣れば「うっす」と軽く挨拶するよう頭をさげては手を振る動きに従って彼の方へと歩みを進めていく。髪型や体格、目付きの悪さも重なって不良っぽいと言われるようになって三年ほど、この合宿に来てから思ったのは目付きの悪い人間など高校にはたくさん居るんだなということだった。目の前の彼もそのひとりである。)……はあ。つまり監視付きでひとり自習させられてたんスか。……なんか罰ゲームみたいスね。(湘北元キャプテンのモノマネのクオリティは素晴らしかったが、話の内容はなるほど納得は出来るものだった。不愛想な顔貌より零れるは抑揚のない言葉ばかり。コンプレッションスリーブを付けていない左腕を気だるげに肩に引っ掛けながら感じた感想を言葉の末尾に添えつつ、しかして続いた言葉にまたたいた。)……俺ですか。(人間ならば誰でもいいのなら自分でなくてもいい筈だと、生意気にも微かに眉を寄せては、)絵のモデルなら男よりも女の人の方がいいんじゃないっスか。……絵画とかって女の人の絵の方が多いですし。食堂のおばちゃんとか、ぴったりだと思うんスけど。(恐らくおだてれば食堂のおばちゃんは喜んで引き受けてくれるだろうと思うゆえ、厨房で雑談に興じているおばちゃん軍団の方を親指で指示してはそちらへ面倒を押し付けようとした。)
* 10/3(Tue) 22:20 * No.138

(思わずこぼれた「えーと」はフィラーの一種だったが、奇しくも江藤に近い響きが惜しい記憶違いのように紡がれた。しかしツッコミ不在の今、第三者の介入もなければ彼の名があやふやでもなんら会話に支障はなく。)うぐっ…! あっさりまとめやがったな…!(モデル発見により上向きだった機嫌が一気に乱れたのは端的な要約により。そのうえ「罰ゲームみたい」という感想が見ないようにしていた現実を容赦なく突き付けてきたものだから「もうちっと他に言い方はねーのかよ」と唇を尖らせてはみたものの、小さな傷心に引きずられることなく彼を手招いた意図を披露すれば、)おうよ。(彼に断られるかも、という頭は少しもなかった。明らかに色よい返事をくれそうにない眉間の皺すら見慣れた類のものだったので、問いかけはいっそ幸運な巡りあわせに対する戸惑いか何かだろうと好意的に解釈していた。)そりゃオレだって別に野郎の絵をかきてーと思ってるわけじゃねー。けど、モデルってのは動いちゃならねーし大変だろ? それにおばちゃんたちは昼食の仕込みもあるからヒマじゃねーし、休憩だって必要だろーが。(ゆえに遠回しなお断りを察することなく、やれやれわかってないなキミはと言わんばかりのジェスチャーを添えて。女性を気遣う心を持ち合わせている男は一方で彼になら「大変」なモデルを任せてもいいと思っているし、こんな時間から手ぶらで食堂にやって来た彼を「ヒマ」認定しきっていた。)というわけで、エンリョはいらん。この天才に描かれるエイヨにキョーシュクする気持ちはわからんでもないがな!(加えて無駄に過剰な自信に支えられた調子のいい発言。そこに悪意は微塵もなく、ただ純粋な思い込みだけが存在している。)
* 10/4(Wed) 10:56 * No.140

他っスか、……なんて言って欲しかったんスか。(罰ゲームとの感想はどうやらお気に召さなかったらしい。とはいえ他に言い方を思いつくわけもなく、如何にも気だるげな吐息を零しては彼に問い返しもしただろう。)ですよね……。(わかっていたことだが、厄介なひとに目をつけられたものである。自ら時間を潰しに食堂を訪ねた身でありながらこんな時ばかりは真面目な部長が自分を探しに来てはくれないものかと思うものの、当然そのようなことがあるわけもなく、遠回しなお断りも通じていないと理解すれば観念したように溜息を落とすだろう。)……俺のモデル料、高いっスよ。(しかして ふ、と口端をあげたならば近場にあった適当な椅子を彼の前まで引っ張っては、足を組んで腰掛けた。描くならばどうぞ描いてくださいとじっと彼の赤髪を見据えては、)……ジッとしてんのも暇なんで、なんか話しませんか。あー……桜木サンは雪って見たことあります?(モデルをしていながら不愛想な顔貌も抑揚のない声も通常運転。目線だけを窓の外へと移してはそんな言葉をぽつりと落とし、雑談を続けようとした。)
* 10/5(Thu) 21:53 * No.144

モデル料?(冗談など言うタイプには見えなかったが、空気の揺らぎに等しくも微かな笑気を認めればふはっと吹き出すように笑い、)なんだ、おめー笑えんじゃねーか。さてはさっきまでこの天才を前にキンチョーしてたな? (和らいだ口角を前に、お手本のような笑顔を見せてやる。何はともあれモデルがやる気になったなら話は早い。此方を見据える眼差しに居心地の悪さを覚えることもなく、)おー、いいぜ。(要望には二つ返事で。無言は苦手なので丁度よかった。早速デッサン用でもなんでもない鉛筆を掴み目を眇めては画家の真似事をしてみるが、形ばかりで意味はない。彼の視線が動こうとも、なんら困ることはなかった。)雪?(なんならともに意識すらも容易く逸れて窓の外に。)そんなら今降ってるだろーが。(昨日の夜からしんしんと。)まあ、今回初めて見たのかって話なら初めてではねーけどよ。たまに降るだろ?(視界が塞がるほどの吹雪ではないものの、降る雪が途切れる気配はない。秋も終わりかと思わせるひんやりとした空気が食堂を満たし、いつもはタンクトップに短パン姿の桜木も今日はジャージを羽織っている。背中を冷やすなと言われたので。)おめーは雪見たことなかったんか? ……まさか、ガイコクジンなんか?(それはそうと、わざわざ話題にするということは彼の方こそ雪に馴染みがないのだろうか。日本では雪が降るのだから、この年まで雪を見たことがないのであれば日本人ではないのでは、と短絡的かつ無知を極めた赤点常連らしい発想をぽろりとこぼして。)
* 10/7(Sat) 00:00 * No.145

そーいうことにしといてください。(と、お手本のような笑顔を前にすれば軽やかに相槌を打ちながら、そんなふうに笑えたのは何時までだったろうと思い返す。兄と一緒に練習していた頃、と浮かんだものの、いや案外最近だったかもしれないと思い至る。そう、中学県大会優勝を勝ち取った時。あの時ばかりは、思いっきり笑っていたかもしれなかった。要望へも快い返事をもらえたならば、ただジッと黙して座ることにはならないだろう。会話で集中力を奪うことによって絵の出来が左右されるとしても、勉強会を抜け出すほどには大人しく座っていられない男なのだ。)降ってますね。昨日の夜から。(今目の当たりにしている光景を、さも当たり前のように言葉にして。)そりゃたまに降りますし、雪を見たことがないわけじゃねーですけど、……すぐ溶けちまうじゃないですか。こっちのは水分含んだ雪が多いから滅多に積もらねーし、雪ってよりは霙って感じですし。(都心でも雪が降ることはあるものの、積雪はあまりないように思えた。雪が降る前に雨が降っていると積もることは少ないし、途中で雨に変わってしまうことも多い。積もったとしても少し雪玉がつくれる程度だったと、幼い頃の記憶を思い出しては小さく吐息した。)俺、雪だるま作んのが夢だったんスよね。……明日になりゃ出来るかな。(これは彼への問いかけというよりは、独り言に近いものだった。視線は外へ向けたまま、今のところ振りやむ気配のない雪をじっと見据えるその眼差しには、微かな憧憬が滲んでいた。)
* 10/8(Sun) 18:22 * No.149

…こっちの?(桜木の発したとんちんかんに怪訝な視線一つなく、ただ降り積もる雪のように淡々としたトーンで紡がれる彼の独白を耳にしながら首を傾げた。)みぞれ…? かき氷…??(言葉の裏側や相手の背景事情といったものを察するのは不得手なもので、静かながら饒舌に連なる言葉の中で引っかかったのは聞き覚えのある単語だけ。彼が神奈川の出身ではないようだと、そんなことすら察せなかった。)よくわかんねーけど、雪だるまなら作れるだろ。こんだけ降ってりゃ小せえ奴ならカマクラもイケるぜ。多分。(唯一彼が雪遊びをしたいのだということを理解したなら、「なんだ、案外ガキだな」と目を細め。雪が降ったら外で遊びたい。じっとなんかしていられない。そんな幼子のような衝動がクールに見える彼にも宿っていたことが嬉しくて、)よし、んじゃシロートのおめーに雪遊びの天才が手ほどきをしてやろう!(明日には雪も止むだろうから、モデル代の代わりに近い未来の約束を。雪遊びは意外と重労働。手のひらサイズの雪だるまならまだしも彼の夢見たそれが本格的なサイズなら、体力も腕力も規格外の桜木ほど役に立つ相棒は居ないはずだ。)チカイとしておめーの横に雪だるまも描いといてやる。(会話をしながら適当に描いた細長い丸。彼の輪郭を象ろうなどという気は毛頭ないのがありありと伝わるそれの横に、数字の8のような丸二つを描き足して、ついでに窓の外の景色のつもりで丸い粒を幾つか降らす。人物画のデッサンというより落書きに近いが、憧憬に濡れた眼差しを柔らかなアーチを描く線に置き換えたなら、)――おし、完成! 題して、『雪とコーハイ』だ!(上機嫌な江藤良の出来上がり。ただし、その難解な髪型は勢いよく黒で塗りつぶされた歪な形。加えて本来の仏頂面とは程遠い笑顔。つまり絵のモデルが彼であることは誰にも伝わらないだろう。)
* 10/8(Sun) 22:07 * No.151

(霙でかき氷を想像されては軽く呼気を転がすこともあったけれど、次ぐ言葉には驚いたように双眸を瞠った。)かまくらも……? え、まじですか。……作れるんですか。(雪だるまだけではなくかまくらも作れるとは。生粋の都会っ子にはとても想像がつかず、抑揚の控えめだった声色が次第に熱を帯びていく。ガキと言われた折こそ「悪かったスね」と拗ねたように呟きもしたけれど、ガキっぽいことは否定出来なかった。バスケ以外には関心の薄い男ではあるけれど、滅多に見れぬ積もらぬ雪というものに関しては憧れがいっとう強いことも自覚しているがゆえに。)はは、バスケットの天才じゃなかったんスか。(彼のいう“天才”とは、てっきりバスケについてのことだと思っていたので。雪遊びの天才と聞けばまたしても笑うようにやわらかな呼気が転がるけれど、「楽しみにしてます」と応える声はきっとやわらかい。が、完成の声に彼の手許を覗き込んでは思わず言葉を失った。)…………おお。まあ、たしかに『雪とコーハイ』スね。(『雪と江藤良』ではなく、あくまでも『雪とコーハイ』なら絵としては間違っちゃいないだろう。髪型も表情もおのれとはかけ離れたものである以上、この絵の細長い丸がおのれであることは誰も想像出来ないだろうし、彼の絵を見た各人がそれっぽい人物をそこに当て嵌めてくれるだろうから。デッサンもへったくれもないその絵に小学生が描いたような絵だなという感想を懐いてしまったけれど、それは心の内にのみ仕舞っておくとして。)でもそれなら、隣に桜木サンも描いたらいいんじゃないっスか。手ほどき、してくれるんでしょう?(そうなるとスケッチというよりもただの絵になってしまうだろうけれど。誓いというのならばきっとそのほうがいいだろうと、軽く笑って告げるのだ。)
* 10/9(Mon) 15:24 * No.156

おうよ。こんだけ積もってて今日一日さらに降るんだろ? ならイケると思うぜ。(大人びて見えてもやはり彼も男子に過ぎない。雪だるまとかまくらのフルコースに分かりやすい興奮を帯びるさまを面白がるように眺めては、フフンと誇らしげに頷いて。その拗ねたガキっぽさだって悪くない。)そりゃバスケットの天才で雪遊びの天才でもあるに決まってんだろ。知らねーのか? 全ての天才は桜木に通ずってコトワザ。(冷えた食堂に柔らかな呼気がにじむのも。硬く見えた表情も存外崩れやすいと知れば、「おう、明日楽しみにしとけよ」と同じく和らいだ笑みを返しつつ、仕上げとばかりに誓いの雪だるまを描いて美術の課題は完成だ。)だろう!(そうしてタイトル通りの出来栄えを褒められたと思えば気分はさらに良くなって、彼の沈黙が感動の証左と思い込んだまま「おお、この天才のモデルとなれた喜びを今一度噛み締めてやがるな」と目を細めて調子づいた笑い声を響かせた。)お、それは良いアイデアじゃねーか。んじゃ題して『雪とコーハイと天才』に変えてやろう!(その調子に乗りっぷりはとどまることを知らず、彼の提案に納得すればいそいそと新たな丸を描いていく。桜木曰く江藤を模した細長い丸には一応髪型らしき部分と目と鼻と口は存在し、耳も一応横についている。それと同じような人間の顔を増やしてのち、デッサンだというのに自らの髪は赤鉛筆で丁寧に塗り上げ、周りにキラキラとした背景効果を描き足すだけでは飽き足らず、「もう少しこの天才と分かりやすくするためには…」と悩んだ末に10番のゼッケンらしきものを胴体として付け加え、「おめーは何番だ?」と問えば彼の生首にも同様に胴体を付けてやる。終いには雪だか紙の白だか分らぬ空間に「天才桜木」と署名まで添えれば似てるも似てないもなくなって。)ほら、おめーの名前も書いとけよ。チカイなんだろ?(とここまでくればもはや誓約書か何かのつもり。もし大人しく従ってくれるのならば、そこで初めて彼のフルネームを知るのだろう。)
* 10/11(Wed) 12:40 * No.161

(昨晩の夜から降り続ける雪は今のところやむ気配はない。既に踏み締めれば音が鳴るほどに積もっているこの雪が明日にはどのくらいになっているのかなどわからないけれど、彼曰く期待してもいいとのこと。疼く好奇心は明日へと取っておくとして。)……はあ。つまりオールマイティ、なんでも天才的に出来ちまうってことっスか。それなら雪だるまの仕上がりも期待していいんスね。(まったく耳に覚えのないことわざを聞いては「はじめて聞きました」と小さく肩を竦めもしたけれど、そこまで天才を強調されてはお手並みを拝見したくなるもの。生意気にも挑戦的な言葉を紡いでは、明日の楽しみをひとつ増やすとしよう。しかしておのれの言葉で絵の雲行きは段々と怪しくなり、誰だか解らなかった細長い丸が江藤良と断定されるやもしれない事態に陥ってしまった。彼自身の描き込みが細かいように思うのはこの際突っ込まないことにして。)……6番です。桜木サンよりも前の番号っスね。(2年の頃よりずっとこの番号を背負い続けて来た。ゼッケン番号はポジションを示すことも多いゆえ、それを1年以上使わせてもらっているという自負はある。挑発にも似た可愛げのない言葉は男なりの意趣返し、ゼッケン番号まで記されてしまえば抽象的だったものが一気に個人を特定するものになってしまうので。)俺の名前まで書くと共同作品みたいになりません? まあいいっスけど、……これって提出するものだったりします?(モデルを引き受けたはいいものの、結果落書きにも見えるものになってしまった。自習ゆえに提出先があるものとは思わないが彼は監視の目がある此処に放り込まれたのだといっていたし、仮にいずれかに成果として提出するものだったとしたらせめて彼が怒られないことを祈るばかりである。なにせその絵に署名してしまうおのれにも被害が飛び火するかもしれないので。言いながら『江藤良』とおのれが名を書き記したタイミングで、外から足音が聞こえてくる。それが自習の終了を告げる足音か、はたまた新たなサボりの生徒を報せるものかは、扉が開いてからのお楽しみだ。)
* 10/11(Wed) 21:35 * No.163

フンフンフーン、オレは天才〜ゲイジュツ家〜桜木〜。(頼みの綱もツッコミを放棄したとなればもはやお絵かき大会男子自由形。妙な節をつけて歌いつつ、彼のゼッケン番号を聞けば「お、ヤスと一緒じゃねーか」と一つ年上のチームメイトを思い出し、彼の挑発には心の底からきょとん顔。)は? つまりおめーはヤスレベルってことか?(ゼッケン番号の若さが実力やポジションを示すなどという概念は頭からすっぽ抜けていた。)いや、あれでヤスもなかなかやる男だけどよ。まあしかしこの天才にはかなわねーしな。天才しか背負う事を許されない10番…ほら、10は英語でテンだからな、その天才にのみ許されし10番をあの野猿ごときが着てるのは本当に気に食わん…!(生意気な、という発想に至る前に持ち前の思い込みの強さで話題を転がせば、最終的には同じ番号を背負う他校のルーキーに闘志を燃やすのに忙しい。そんなこんなで飛び飛びの話題で彼を振り回してのち、)美術の課題ってんだから提出するに決まってんだろ。まあ、なんか言われたなら正直にオレとおめーで描きましたって言うまでだ。中坊とは仲良くやれって言われてるしよ。(心配する彼とは対照的に一匙の不安も存在しない男は「しかられるようなことはしてねー」あっけらかんと言い放つ。そうして無事に署名が増えたのを満足げに眺めれば、)エトウ…リョウ…いや、ヨシ?(その正解を問うより先に、新たな人の気配に扉の方を振り向いて、)げっ、ゴリ…!(予定よりも早い監督者の訪問に顔をゆがめた。なにせワークは一枚も終わっていないし、先ほどああは言ったものの、成果が手元の落書き一枚ではまずいという自覚はあったので。)ち、違うんだ…! これはヨシ…そう、ヨッシーとオレのキズナの共同制作でな! 明日にはシンボクを深める約束もして、そう、オレたち決して遊んでいたわけじゃねーんだ…! な、ヨッシー!(慌てて彼と肩を組めば、適当な愛称をつけて仲良しアピールを。無論ガタイのいい彼ならばすぐに振りほどくなり訂正して真実を告げるなりできただろうから、こののち桜木に鉄拳が落とされるか否かはヨッシーこと江藤良の良心次第と相成った。)
* 10/14(Sat) 19:30 * No.168