Prologue
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【Prologue】10/31(土):午前 ロビー
(呼ばれたら行きますよ、――そう監督へ告げたのはいつだったか。過日の県大会で残した成績が功を奏したということが、部長の立場の己が招待された一番の要因だろうと信じて疑いもしない男は言われるがままに用意のされた掃除用具を手に取って。最初に足を向けていた場所はラウンジであったのだけれど、自身の荷物に用があるからと掃除を一旦抜け出して、向かう先は多目的ルーム。他校生の荷物も纏めて置かれているから、己の荷物を探すのに少しの時間を要してから。見付け出した目的の品より、取り出すのはリストバンドだ。)……よし、と。(そのまま右手首へ通したのなら満足げに頷いて。練習とは異なり掃除に時間を費やすことになったとはいえ、気合を入れて臨めば汗も掻くというもの。どうせならばとタオルを持ち出すことも検討しつつ、まずはリストバンドで様子を見ることとしたのなら、開いていたバッグの口を閉じてしまおう。周囲には多目的ルームの掃除を言い渡された姿がちらほらと。そんな姿を見回してから部屋を後にして、そのままロビーへ向かう足は真っ直ぐに、)……っわ、(咄嗟に零れる「すみません」は、相手が誰だか知らない内に。角を曲がったところで感じた衝撃に、まず窺うのは相手の怪我の有無だろう。)大丈夫ですか、怪我とか――(見遣った先に在る相手が、せめて何事もなく立っていれば良いのだけれど。)
* 8/25(Fri) 23:15 * No.4

…
(まさか県大会で競い合った猛者たちとこんなにも早く再会を果たせるとは驚きだ。しかしそれ以上に神奈川県でも強豪校と謳われる四つの高校のスタメン選手たちの合同合宿に招かれた衝撃は大きく、監督から招待の話をもらった折は珍しく眠れなかったものだけれど、そんなことはおくびにも出さず此日を迎えた。合宿は明日、なれど実質選手たちとの顔合わせのようなものなれば緊張するなという方が無理な話し。特別誰のファンというわけではないけれど、予選大会での会場の熱気と胸に込み上げた想いは今でも記憶に新しく、管理人への挨拶を済ませたのちは多目的ルームに荷物を置いたのち、掃除用具を手に言い渡されたロビーへと向かう。しかして空のバケツを手に持てば近くのひとりに声を掛け、モップ用の水を汲みに行こうと率先して水場へと向かうべく角を曲がった瞬間。) っと、(ドンッ。と、当たった衝撃は速度が出ていなかったことがさいわいしてか、そこまで重いものではなかった。)……いえ、平気っスけど。寧ろソッチが大丈夫ですか、怪我とか。(体格差的には当たった相手の方が怪我を負う確率は高かろう。ひとまずこちらは無事である旨を伝え、次にこちらからも怪我の確認を問いながら、改めてぶつかった相手を見遣る。)――…中世古?(どうりで聞き覚えのある声だと思ったら、角でぶつかった人物はおのれもよく知るチームメイトだった。ひとつ瞬きをついてから、)前方不注意。……俺もだけど。もしかしてキンチョーしてる?(ゆるりと首を傾いでは、話題のひとつに前方不注意の理由でも問うてみるとしよう。)
* 8/25(Fri) 23:56 * No.5

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(衝撃にバランスを崩しかけるも踏み止まって、双眸が収めた相手に瞬きを数回。そうと知る前に開いた口が紡ぐのは、ユニフォームの色を同じくしたチームメイトの名前だ。)江藤?(体勢を崩しこそはしたけれど、転ぶといったところまで至らなかったのは体幹が故だろう。そもそも曲がり角の先を見遣らなかった此方にも非があることは当然で、衝突の相手が知った相手であったことをいっそ幸いを思うべきかもしれないとは、流石に前向きが過ぎるかもしれないが。)痛めてないなら良かった。――緊張はしてる。するだろ。……するよな?(合同合宿の参加者として名を連ねる高校生は、いずれも名の知れた選手ばかり。今までは試合風景しか目にしたことのなかった彼らの練習を前にする機会を与えられたのみならず、共に合宿の時間を過ごすことが出来る機会の何と贅沢なことか。尋ねながら向けた視線が捉えたのは、彼の手に持たれた空のバケツ。どうやら真面目に掃除に勤しんでいる様子だと、)何処の掃除してんの、今。(他の面々も彼同様、確りと与えられた役割を熟しているだろうか。確認の声は同級生の其れというよりかは、部を率いる長としての其れだったかもしれない。)
* 8/26(Sat) 18:14 * No.13

…
そりゃお互いさま。(怪我がなくてよかったは彼にも当て嵌まることだ。おなじユニフォームを着るチームメイト同士、斯様に甘い接触で怪我をするような柔な鍛え方をしていないことは互いに知っていることだろうけれど、気遣いは大切だろう。重ねられる言葉に微かに口許を緩めては同意を示すように頷いて。)……緊張しないわけがねーよ。招待来た時から頭ん中この合宿のことでいっぱいだったしさ……こんな貴重な経験、きっと二度と出来ねえし。……お前もまだ決めてなかったんだろ?(とは、進路についての話である。なにせ此度の合同合宿、高校バスケ界で名を轟かせている名選手らと一緒に練習が出来るだけではなく、中学生側の参加条件は4校の内のいずれかにバスケ推薦枠で必ず進学することであり、何処に進学したものかと迷っている身としては参加しないという選択肢はなかった。恐らくは彼もおなじだろうと思うからこそ同意を求めるような問いも投げつつ、)あー……そこのロビーだよ。モップ掛けすんのに水が必要だってんで、バケツに水汲もうと思ってたとこ。他にも何人か居るぜ。(おのれの背後にある方角を示すよう、立てた親指をクイッと動かしては掃除場所を示そう。この『他にも何人か居る』はおなじく選抜に選ばれたチームメイトのことを指しているのだが、果たして気づいてもらえるだろうか。)中世古は? ……部長としてサボってる奴がいないか見回ってる最中とか?(彼が部長に抜擢された理由を思えばそうしていたって可笑しくはないだろう。真相はさて、如何に。)
* 8/26(Sat) 21:37 * No.16

…
(同意の言葉には「だよな」と一度頷いた。その同意が掛かるのは緊張に関してと、互いに広がる今後の進路に関してで。)……呼ばれたら行くつもりだったけど、呼ばれなかったら他にも考えてたかもしれない。進路以前の問題で。(何せ此度の招待を受けた他の面々を見る限り、過日の県大会の存在は大きく作用しているものとの推察は容易いから。周囲は選ばれながらも己が選ばれない、そのような状況となった場合には、思うところも考えるところも相応に有ったに違いないと。そうならずに済んだことから、新たに考えるべきはそれこそ彼の言うように、今後の進路となるのだが。)ちゃんとやってるんだな。良かった。……他の中学がどうなのかは知らないけど、そのままやっといてくれると助かる。監督にも報告し易いし。(彼の言葉には納得したように何度か頷いて、続ける言葉は掃除の継続。とはいえ出来る範囲に限りはあるだろうし、これから1ヶ月を利用することを思えば日々の掃除も必要不可欠となるだろうから、隅々までを磨き上げる必要性もないだろう。目に付く汚れを落とす程度まで済ませてくれれば十分である筈だ。)監督の所に行くつもりだった。これからの予定も確り聞いておきたいし。見回りはそのついで。(言いつつも、ついでと称する時点で見回りの必要性はあまり感じていないことも伝わるだろうか。元から彼らがサボるとは思っても居ないのは今まで培った信頼が故であり、こうして合宿に参加をしているチームメイトであれば、そもそも選択肢として浮かびやしないだろうとも思っているからこそ。)
* 8/26(Sat) 23:43 * No.18

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俺は、中世古が呼ばれないことはねーと思ってたけど。(県大会で残した結果はもちろんのこと、彼の活躍を知るからこそそんな言葉も零れるというものだ。事実県大会で活躍を見せながら呼ばれていない者は居るものの、此度の幸運に感謝こそすれ『もしもおのれが選ばれていなかったら』というたられば話はあまり考えない性質である。決まりが悪そうに眼差しを逸らしては、気持ちを持て余すように首筋へと手を掛けた。)……まあ、ウチは部長がちゃんとしてっからな。そこは大丈夫だと思うよ。(他の学校はいざ知らず、怠けようなどと考える者は少なくとも回青には居るまい。そう思うのも言葉にした通り頭がしっかりしていることと、三年間苦楽を共にした仲間たちへの信頼があるからこそだった。しかして返ってきた言葉には、)おー……まじめ〜。(と、納得したような吐息も零れるけれど。)……ついで、ね。(直接的ではなかったとしても、その言葉に籠められた信頼を感じ取れぬほど薄情者ではないつもりだ。ふ、と口許も自然に緩むというもの。少し下にある彼の顔ばせを見つめては、)じゃあ先生との話が終わったらコッチの掃除も手伝えよな。部長だけ掃除サボってるだなんて、いわれたくねーだろ?(などと、冗談めかして紡ぐのだ。)
* 8/28(Mon) 21:32 * No.22

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優勝したチームの“4番”が呼ばれない、なんてことにならなくて良かったよ。(こればかりはと安心したように肩を竦めて。実際に呼ばれた者と呼ばれなかった者の間に存在する境界線は、一体何処にあるのだろうと思わなくもないけれど。これが来年へ向けての布石であるというのなら、それぞれの高校に必要な人材としての見極めが発生していることは間違いないだろうが。)それは何より。普段から厳しくしてた意味があった。(小さく笑って紡ぐ言葉は冗談半分本気半分といったところか。元より彼らが手を抜く可能性を考えてもいなかったながらに、言葉にされることで安堵する気持ちは当然あって。)そうか?普通だと思うけど……他のところの部長もやってるだろうし。(叶うならば中学生同士の連携も密にしたいところだとは、同じ合同合宿へ招待をされた者としては自然な考えではないだろうか。主体となるのは高校生達として良いだろうとも思うから、あくまで意思疎通程度だけで構わないだろうけれど。)ん。わかった。終わったら戻ってくる。(彼の言葉には生真面目に頷いて返すこととしよう。午前の掃除が終われば昼食と聞いているし、時間もそろそろ良い具合になってはいるから手伝えるとしても多少となってはしまいそうだけれど。その分は午後に確り費やす心算だから、プラマイゼロとしてくれれば良い。)
* 8/30(Wed) 20:36 * No.25

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……自信なかったのか? 胸張ってりゃいいのに。(選ばれて当然と思えとは言わぬものの、素直に喜べばいいのになとは先からの言葉を受けて感じていたことだ。招待された者とされなかった者、学年以外の線引きがあるとするならばそれはやはり期待値の高さだろう。招待を受けたということは、つまり先方に期待されているということである。ならばそれに応えるのが呼ばれた者として当然の態度だろうと思うゆえ。)……、……まあ、でも。もーちょっと優しくしてほしかったカモ。(とは、『普段から厳しくしてた意味があった』へのいらえだ。彼に倣って軽い調子で紡いでは、ふっと吐息を零すとともに肩の力を抜いて。)……いや。俺には真似出来ねえなって意味だよ。(彼にとっての普通はおのれの普通ではない。彼のようにはきっと出来ないと思ったからこそ、改めて部長・副部長の肩書はおのれには向かないと痛感したというだけの話だ。)おー……待ってる。他の奴らにも、あとで部長が来るぜって伝えとくわ。(などと冗談めかして告げたなら、何事もなければこのまま彼を見送る姿勢。これ以上引き留めて彼が掃除を手伝う貴重な時間が減ってしまうのは心が痛いので。)
* 8/31(Thu) 22:26 * No.28

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(問う言葉に返す言葉はなく、肩を竦めるだけ――それが何よりの答えとなるのではないだろうか。彼のような俊敏性を持ち合わせている訳もなければ、シュートが精密という訳でもない。ただ淡々と己の為すべきこととして積み上げてきただけで、結果として4番を背負うに至っただけのことだから。尤も呼ばれたからには相応の振る舞いが求められていることを理解しているから、己の立ち位置に疑問を持つことはないけれど。)お前らなら出来ると思ってたから。(厳しくしていた理由。要するに、信頼の裏返しであるとあっけらかんと口にしよう。続く言葉には「そうか」と首肯返しはするけれど、他校の部長に対し確かめたいこととしてタスク化したか。同期のみならず、高校生達の中に存在する同役職の諸先輩に尋ねたって良いだろう。)了解。なら一旦、任せたから。また後で。(長らくの立ち話は、それはそれで彼の時間を奪うことにも繋がるから。今更同期同士の談笑を見咎める者は周囲には居ないだろうけれど、合宿に関連する話であれば、掃除を終えてからでも十分に違いない。言い置けば向かう先とするのは宣言通りの監督の元へ、今後の予定を確認したのなら、彼をはじめとする仲間達に共有することとしよう。再びの合流まで、然程時間は要さない筈だ。)
* 9/2(Sat) 19:04 * No.32

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(彼の自己評価がどのようなものかはわからぬし、それを深く掘り下げて訊こうとは思わない。バスケ部を纏めてくれた実績は揺るがず、彼のことを部長として尊敬している事実も変わらないゆえに、肩を竦める仕草をみとめれば男もおなじように小さく肩を落としてこの話題は終いとした。)うわ……そーいうこというの、ほんっとずるいよな〜……。(三年間積み重ねてきたものがあるからこそ向けられる感情も正しく理解しているつもりだ。勿論先の言葉も本心ではないとはいえ改めて信頼を向けられると照れくさいものもあり、視線を逸らしてはくすぐったさを誤魔化すように首筋へと手を引っ掛けて。)ん。またあとで。……先生によろしく言っておいてな。(モモ中からも招待された選手が居る以上、かの校の監督も来ているのだろう。静かに火花を散らしているかもしれない二人を思い浮かべるも、彼が行くのならば一安心かと緩く手を挙げてはその背を見送ろう。男もおのれの仕事をこなすべくバケツに水を溜めたなら、ロビーで待つ仲間たちのところへ戻るとしよう。チャンバラを始めるようなこともなく、無事に彼と合流が叶ったならば、その後もきっと真面目に掃除に励んだだろう。)
* 9/4(Mon) 22:21 * No.35