Prologue
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【Prologue】10/31(土):午前 食堂・管理棟前
(合宿は明日から。その記憶に間違いはなかったが、前日に合宿所に現地入りする話はちょっと頭から抜けていた。それでも午前中の内に顔を出すことが叶ったのは、気にかけてくれた後輩のお陰といっても過言ではないだろう。持ち込む荷物は鞄ひとつで事足りる。残念なのは海から遠くて気軽に釣りに行けないことくらいだが、揃った顔ぶれを見遣ればきっと退屈はしないだろうという確信はあった。まあ釣りにだって行こうと思えば行けるのだし。)――ぼちぼち、やるかな。(斯くて食堂も兼ねている管理棟で管理人への挨拶を済ませたのち。各々が掃除用具を手に持ち場へと向かう中、ひとりだけ輪から離れてのんきに自販機でドリンクを買っていたのだが、いい加減部屋の掃除に取り掛からんと腰をあげた。掃除は頻繁にするわけではないが苦手というほどでもなく、これから一ヶ月過ごす部屋ならば尚のことサボるわけにもいかないだろう。ズボンのポケットに無造作に突っ込んだ鍵を取り出してはタグに取り付けられている部屋番号の確認をし、さて宿泊用のアパートは何処にあったかと遠くに眼差しを向けた折。)ん?(ふと足音を聞いて振り返る。まだ管理棟に残っていた人間が居たのか、或いは戻ってきたのかそのあたりの事情はわからぬものの、)邪魔なら退こーか。(なにせ今、自販機の前を陣取っているもので。適当にあたりをつけては、そんなふうに声をかけてみよう。)
* 8/26(Sat) 00:35 * No.6

…
(監督にもチームメイトにも、「とにかく失礼のないように」とたくさん言われたことだけは覚えている。だがその「失礼」の中身をいちいち詳らかにはしてくれなかったので、曖昧な理解をよしとしたまま今日を迎えた。生まれつきゆるく癖のついた長めの黒髪に寝癖を紛れこませたまま、右腕を部長、左腕を副部長にがっしりと押さえられての登場はさながら捕らえられたエイリアン。否、犯人連行の方が近いかもしれない。身長190センチ近いセンターと、同じく体格に恵まれたパワーフォワード。中学生らしからぬ屈強な二人に挟まれたまま、比較的難度の低い掃除用具であるはたきを与えられ、「いいか、これで高いところの埃を落とすんだ」「軽く叩くだけでいい」「ぽんぽん、だ」「わかったか?」「余計なことはするなよ」「サボるなよ」乙坂のせいで双子の如く息がぴったり合うようになってしまったお目付け役たちの言葉に頷いてのち、はじめこそちゃんとぽんぽんしていたのだけれど、猫に鰹節、泥棒に鍵、乙坂に棒。スティックで何かを叩かせてはいけなかった。二人が様子を見に戻った頃にはビートを刻んで楽しむ姿が。――して、自らが叩かれる羽目となった乙坂は管理棟へ追加の掃除用具を取りに行くよう命じられたのだ。)……バケツ2つと、ぞうきん3枚。(ゆえに口にしたのは振り返った青年への返事ではなくお使いの詳細。)ううん。じゃまではないよ。(それを忘れぬようにと繰り返すのを止め、今度こそ彼に言葉を返すと、)こんにちは。(にこっと笑う。単に生来の懐っこさから。)
* 8/26(Sat) 01:14 * No.7

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(情報収集に余念がない後輩ならばいざ知らず、生憎と此度呼ばれた中学生のことは名前は愚か顔も知り得ていなかった。事前に少々聞かされたような気もするけれど、残念ながら覚えていないのが現実だ。ゆえ瞳を向けた先に居た彼のことも当然どこの誰だかまったくわかっちゃいなかったが、しかし予想だにしなかった言葉が耳に届いては きょとん、と思わず瞬きをついていた。バケツに雑巾とは、まあ深く考えずとも掃除の途中であるのだろう。大方お使いを頼まれたといったところだろうか。自販機に用事があるわけではないことは先の言葉で予想もついたが、改めて彼の口から聞けたなら動く必要はないだろう。まだあどけなさの抜けていないように思う笑顔と向き合えば、浮かび上がる感情に任せてふっと呼気を転がした。)こんにちは。(にこりと笑みを返す。中学生相手であれ、誰に対しても態度を変えないのがこの男だ。)バケツと雑巾なら階段下の用具入れにあったと思うよ。(廊下をまっすぐ進んだ先、そこで突き当たる階段下の用具入れに確か一式あった筈だと必要ともわからぬ助言を添えては、一応その背を見送るつもり。)
* 8/26(Sat) 13:08 * No.8

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(チームメイトに連れられて見た高校生たちの試合は今でも目に焼きついている。けれどもあくまでそれは彼らの動きの話であって、個々の顔貌の話ではない。ましてや高校や選手の名前など。)ありがとう。(ゆえに穏やかな笑顔と助言に一層顔をほころばせても恐縮はしない。もし此処がコートの上ならば、今がゲームの最中ならば一目で彼を思い出すこともできたろうに。残念ながら眼前の彼は自販機よりも背の高い、ただの親切な男に過ぎなかった。ちなみに大会で相対することの叶わなかった選手ならば中学生選手すらうろ覚えだ。ため口に眉ひとつ動かさぬさまを見るに、もしかすると彼は同級生かもしれない。そんなひらめきが黒い瞳に宿れば、)大きいね。センター?(なんて安直な推測を口にして、)中学生はあっちの掃除だよ。(今来た道を振り返り、仲間たちが集う建物を指さした。)いっしょに行こう。バケツとぞうきんとってくるから、少し待ってて。(それから告げた誘いは断られるなんて微塵も考えていない声音にて。)よし。バケツ3つとぞうきん2枚。(そうと決まれば当初の目的を果たすべく、彼に教わった道を行こうか。)
* 8/26(Sat) 14:48 * No.10

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(これまで相対してきた他校の下級生に比べたら彼のため口などかわいいものだ。同級のチームメイトとは異なり元よりそういう細かいことは気にならない性質なれば、顔ばせは穏やかに凪いだまま。)センターか。考えてもみなかったな。(たとえば部内の練習試合や後輩育成の折などで担うことこそあれど、思えばそのポジションに収まった試しはない。身長には恵まれた方だが陵南には此度の合宿に際して声が掛かったという前キャプテン、絶対的センターが居たということも大きいが、なによりそういった采配は優秀な監督が決めてくれているゆえ、おのれが口を出すことではないと思っている。それだけ監督には信を置いていた。――閑話休題。とかく遠回しな否を伝えては「そっちは?」と流れに乗るかたちで彼のポジションも訪ねてみるとして。)……ん?(どうやら中学生と間違えられているらしいと気づいたのはこの時だった。素直に指差された方角を見遣り、ワンテンポ遅れて薄く開いた口から疑問符が零れ落ちる。あれよあれよと進む話に口を挟む間などなく、最終的にまあ別にいいかと楽観的な結論を出してしまえば、目的を果たさんと道をゆく彼の背中を見送るだろう。今訂正せずとも、どうせすぐに高校生だとバレてしまうのだし――と、いうわけで。)一緒に行くってことは、案内してくれるんだろ。どこの掃除をするんだ?(中学生が宛がわれた掃除先などもちろん知るわけもなく。彼が戻ってくるなりそう言葉を掛けては、掃除場所までの案内は任せてしまうつもり。彼の握る掃除用具へと眼差しを落としては「少し持とーか?」と、分担を申し出る場面もあったろう。)
* 8/26(Sat) 17:56 * No.12

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(その体格を見て思い浮かべたポジションは絶対当たりだと思ったのに、)あれ、ちがうの?(どうやら的外れだったよう。あら、と瞬く間に今度は立場が逆転したので、「スモールフォワード」とシンプルな回答を述べた。そうして彼の情報に「センターではない」「中学生」と加えてのち、親切心でもなんでもない単なる我欲で並び行く約束をとりつけた。そして言葉通り「少し」の時間で済むよう急いで持ってきたのはバケツ3つと雑巾2枚。当初口にしていた内訳と異なることに気づく者はいないまま、彼を案内してあげる。)さ、行こう。中学生はあの建物の1階を掃除するんだよ。ラウンジとか、多目的ルームとか。(とはいえ管理棟からさほど距離はない。だからといってせっかくの申し出を断ることはせず、「じゃあ少し」とバケツ1つと雑巾1枚を彼の分担とすれば、短い帰り道をゆったりと行きながら。)そうだ、名前は?(ようやくポジション以上に気になる情報に思い至った。)おれは乙坂夏海。
* 8/26(Sat) 20:05 * No.15

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(『ちがうの?』という言葉へはにこりと笑って「違うよ」といらえよう。しかして尋ねた答えを彼の口より聞いたなら、)へえ。おなじだな、オレもフォワード。(と、彼と同じポジションで活躍している旨を伝えよう。PGを任されることもあるが、基本的にはフォワードとして動くことの方が多いゆえ。冬の選抜ではどのポジションに就くことになるのかまだわからないが、どこを任されるにせよ出来ないこたーないだろう。彼の『行こう』を契機に歩みを進め、渡された掃除用具を受け取っては、これから行く建物へと眼差しを向けた。)ラウンジに多目的室か……どっちも広そうだ。何人来てるんだっけ?(任された場所を考えるに相応の人数が来ているのだろうが、そこのところも酷く曖昧だった。ゆえさり気なく人数を問いながら、名を問う声をどこか新鮮な気持ちで聞いていた。名を知られていることの方がずっと多かったゆえ、こうして名乗るなどいつ振りになるだろう。彼の名乗りまで聞いてから、ふっと緩めた口を開く。)仙道彰。よろしく、オトサカ君。(手を差し出しての挨拶とならなかったのは、歩いているからに他ならない。)名乗りついでにどこの中学かも聞いておこうかな。(中学は東京の学校に通っていたゆえ、神奈川の学校はサッパリわからんというのが本音だけれども。そういうのはあとで詳しい後輩にでも訊いてみようと思いながら、訊ねるように彼を見遣っては、所属している学校を教えてもらうことは叶うだろうか。)
* 8/28(Mon) 11:30 * No.21

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きみもフォワードなの?(ポジションを同じくする相手を見つけたとき、ライバル視する者、値踏みする者、人それぞれ反応は様々だろうが、この乙坂に至っては「いっしょなんだ」と親近感を抱くのみ。「ドリブルとか、シュートするの楽しいよね」なんて共通の趣味を見つけたような反応で和やかに話題を締めて。)──えーとね……じゅう、…人くらいかな? あれ、もっといたかも。(会話が再開してすぐ、問われたのはおそらく中学生の総数だろう。集合時の印象を指折り数え、両手で足りなくなったところで曖昧な結論を。彼もその一人だから、プラス1。)センドー、アキラ……じゃあアキラだね。(そうして彼の名を知り得たなら、当然のようにファーストネームを口にする。こればかりは文化の違いか。逆にファミリーネームを呼ばれることも日本ではよくあることと心得ていて、「うん、よろしく!」とバケツに阻まれた握手の分も元気よく。)おれは白鳥中。チームメイトのレージとシンジもいっしょだよ。(「レージはセンターでね、シンジはパワーフォワードだよ」連なる質問を彼からの関心と受けとれば嬉しくて、聞かれていない仲間たちの紹介も済ませたなら、)アキラはどこの中学なの? たぶん、戦ったことないよね?(等しい関心を返して問うた。見覚えがないということは予選で当たらなかった学校だろうか。間近で彼の動きを見たならば、きっと覚えているはずだから。そのツンツンとした頭も。きっと。)
* 8/28(Mon) 22:47 * No.23

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(問い返すような言葉へは軽く頷いてみせながら、楽し気に語る声を聞いていた。)色んな奴と戦えるのは楽しいかな。(もちろんペネトレイトで切り込んでパスを出すのも、シュートを打つのも楽しい。けれど彼のように勝負や試合よりもドリブルやシュートといった基礎を『楽しい』と言えるのは純粋にバスケを楽しんでいる証拠だろうと感じたゆえ、自然と「バスケ、楽しいか?」という問いかけが続けて零れていた。しかして問うた人数は中学生の総数で間違いなく、彼の言葉を聞いては感心したように吐息して。)少なくとも10人は居るってことか。……来年の予選も荒れそうだ。(今年の予選もルーキーたちの活躍が光っていた。きっと来年もおなじような番狂わせが起こるかもしれないと感じては、未来のライバルを歓迎するように楽しそうに口の端をあげてふっと笑う。とくに傍らに居る彼は、湘北の赤頭――桜木花道とはじめて対峙した折に懐いたものと通ずるなにかを感じさせてくれる。年下から名前で呼ばれようとも気にすることもなく、斯くて告げられた学校名は案の定知らぬものであったけれど。)そうか。優秀なチームなんだな。(三人も呼ばれているということは、いずれもいい選手なのだろう。問い返しには はははと軽く笑声を転がして。)言ってもわかんねーと思うよ。(どこの中学かと問われたゆえ、もちろん中学についての話をしている。中学時代の記憶を振り返ってみても白鳥中とぶつかった憶えはなく、ゆえに東京の中学校の名を告げたところできっとわかりゃしないだろうと一応の事実を述べながら。)でも、来年になれば戦えるかもな。(彼が高校に進学し、いずこかの強豪校でスタメンを勝ち取ることが出来たなら。或いはチームメイトになる可能性もあるけれど、いずれにせよ戦うことは叶うだろうと。)
* 8/31(Thu) 13:42 * No.27

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楽しい!(こぼれるような小さな問いに対しても食いつくように返事をする。それ自体が答えだろう。初めてスタメンとして起用された夏の大会を経て “楽しむ”ばかりではいられないと知ったけれど、それでもなお練習も試合もすべては身体を動かすことに通じ、それは慣れ親しんだ生の実感と喜びだ。ゆえに意外にもひとたび集中してしまえば真面目なほどに反復練習の鬼と化すのだが、あいにく今は掃除の合間。互いののんびりとした気質がそうさせるのか、自己紹介も兼ねた穏やかなおしゃべりで短い路を埋めながら、)うん。大好きなチームだよ。(彼の言う“優秀”を言い換えてみる。乙坂の独特なリズムに順応しづらいのは何も敵だけではないのだから、白鳥中を準優勝に導いた彼らの努力は凄まじかった。癖の強い飛び道具みたいなエースを抱えて、それを支えて活かせるだけの土台となってくれたチームメイトを慕う心が子犬のように瞳をきらめかせ、)んー、たしかに。言ってもわかんねーかもな?(いい気分のまま戯れに彼の語調を真似て、「そうかも」と軽い笑声を相槌にする。まさか東京の学校出身とは想像もせず、ただ、自身の無知は知っているので。)来年? ああ、二人ともちがう高校に入ったらってこと?(確かに中学生の自分たちは冬を越えなければ再び試合をする機会もないのだろう。納得にひとつ頷き、けれどすぐ「あ、でも」と否定を挟む。)この合宿できっと、おれたちいっしょに戦えるよ。(練習中に行われるゲームも幾度かあるだろう。となれば味方同士、あるいは敵同士、そのどちらも味わえる可能性に声が上ずる。)楽しみだなあ、アキラとバスケするの。
* 9/1(Fri) 01:21 * No.29

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(すかさず返った言葉を聞けば、聞くまでもなかったかと顔貌に笑みが滲む。無論楽しいことばかりではないものの、それでも彼のように純粋にバスケを楽しむことが出来るのはある種の才でもあるだろう。おのれも初心は忘れたくないものだと眦をやわらげ、臆面なく紡がれた『大好き』にはひとつ瞬きをついてから口を開く。)……そういうところが、お前の魅力のひとつなのかもな。(純粋というか素直過ぎるというか。けれどそれこそが彼が持つ魅力のひとつなのだろうと思うゆえに、ふっと笑むような吐息も転がってしまう。素直といえば今日も情報収集に張り切っている後輩の姿が一瞬ばかり重なりもしたけれど、それともまた少し違うかと脳裡に描いた姿をさらりと流しては、たわむれめく相槌に「だろ?」と緩やかな笑顔を返すのだ。しかして、)そーいや合同練習もあるんだったか。(すっかり忘れていましたと言わんばかりの口調。けれどそれなら確かに近い内にコートの上で会えるかもしれないと傍らの彼へと眼差しを向けたなら、上向く声に穏やかに言葉を返した。)ああ、オレもだよ。(仲間同士となることもあるだろうが、立場的には対立する可能性の方が大きいだろうと見ている。ゆえ彼がどのようなバスケをするのかはこの合同合宿中に知れるだろう。楽しみだと同意を示すよう頷いた折、「仙道!」と横から声が掛かった。見れば少しばかり離れたところに見知った前キャプテンの姿がある。その形相を見るに、どうやらこの状況をサボっていると思われているらしかった。)ワリィ、オトサカ君。今日はここまでみてーだ。(流石のマイペース男であっても素通りというわけにはいかず、片手を立てて『悪い』と手振りでも謝罪の意思を伝えよう。先輩の方へ足を向ける前に「あ。掃除道具、ここに置いといていいか?」と、手に持っていた道具を手放すことも忘れずに。)――またな。(しかして告げた別れの挨拶は、これっきりの縁とは思わぬからこそ気さくなものだった。斯くて去りゆくTシャツの背中には “B.C. RYONAN HIGH SCHOOL”の文字が躍っていただろう。)
* 9/2(Sat) 17:42 * No.31

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そういうところ? …が、おれの魅力、のひとつ?(その言わんとするところはわからなかったが、だからこそ「魅力」という単語のポジティブな印象ばかりが心に残る。きょとんとした顔でもう一度彼の言葉を繰り返せば、)……おれの魅力、いっぱいあるって思ってる…ってこと?(出てきた感想はポジティブの上乗せ。そんな図々しい解釈をたとえ否定されたとしても、先の彼の眼差しや呼気の柔らかさだけを都合よく記憶に留めるのだろう。嫌な記憶は放っておけば波がさらってくれるように、いずれ頭の中から消えていく。一方、嬉しい記憶は大事に拾い集めてとっておく。──たとえば穏やかに返る同意の言葉も。)ふふ、これからいっぱいバスケしようね。(長い休暇を前に友と約束を交わすように、彼を見上げて微笑んだ。かち合った視線。続けようとした言葉はしかし、不意に放たれた「センドー!」の音に劈かれ、驚き瞬き、それが彼の名であることに結びつくまでの少しの間、ほんのわずかな時間に終わりはやって来てしまった。)…ああ、アキラのチームの子?(声の主は“子”と形容するにはあまりにも、という容貌だったが、遠目には大柄なシルエットだけを捉えていたので。さまよっていた彼を迎えに来たのだろうと察せば、謝意と掃除用具の確認には「だいじょうぶだよ」と頷いた。「また」という挨拶は名残惜しさを軽やかなものにしてくれる。)――うん。またね。(だから同じように口にする。明日から始まる合宿を思えば別れの挨拶のつもりもなしに、近い再会を想定した言葉として。そうして置かれたバケツを自分のものと重ねながら、ふと去り行く二つ背中に目を遣ると、)……アキラよりも大きいなあ。今度こそセンターかな?(躍る文字には目もくれず、のんきな男が己の勘違いに気づくのは彼と別れてすぐのこと。あまりにも遅い乙坂を捜しに来た副部長に「アキラとおしゃべりしてました」と素直に謝罪するさなか。──「誰だよアキラって」「大きいけどフォワードで、髪がツンツンしてて、やさしい子」「…どこ中?」「知らない」「……苗字は?」「えっとね、センドー」「センドー?」「うん」「……って、仙道彰!?」「知ってるの?」「だってそれ、陵南高校の仙道彰だろ!? 神奈川ベスト5の! フォワードもポイントガードもこなす天才オールラウンダー!」)…………えっ、アキラって高校生だったの!?
* 9/4(Mon) 01:23 * No.34