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【sub】11/1(日):午後 第一体育館(1on1)【5】

(その日、湘北高校バスケットボール部・主将である宮城は、いつもの練習着姿は変わらぬまま、何故だか白いデフォルメされたおばけの面を頭につけて体育館に立っていた。理由は自分でもよくわからない。新チームでは鬼キャプテン路線でひた走ると決めたけれども、幽鬼になりきる予定など立とうはずもなかったのに。そもそも午前中、固いカボチャとナイフを渡されて、聞いたこともない長い横文字のモノを作れと命じられたあたりから怪しかった。キャプテンとしての職務に集中するべきと判断されたのか、自分には同室があてがわれなかったために荷解きという程の作業もなく、手持ち無沙汰で体育館に向かったらこれだ。「ありえねぇ、マジありえねぇ」とぶつくさ文句を言いながら、顔を出してくれた同級生の部員らと共にジャック・オ・ランタンなるものを量産したのだった。――午前中の彼らの成果は、体育館に飾られた不恰好なカボチャを見れば一目瞭然。不出来さが却ってホラーな雰囲気を醸し出している。)にしても、中学生相手にミニゲームっつったって……。(お面で覆われていない、刈り込まれた後頭部を左手がザリザリと撫でる。)まあいーや。ねえ、そこの人。オレと勝負しない? 体育館に来たってことは、バスケしに来たんだろ。1on1しようぜ。(もしも相手が受け取れる体勢であれば、遠慮なしに脇に抱えていたバスケットボールを投げて寄越しただろう。そうでなければ軽く床にボールをつきながら、)あと、勝ったら菓子が増えるらしい。(と、どうでもよさそうに付け足した。そのときにボールを持っている方が先攻でいいだろう。攻守のどちらにしろ、腰を低く構えて相手の出方を待つ。)
* 9/12(Tue) 11:35 * No.8
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(合同合宿初日。アパートで迎えた最初の朝は案の定爽やかな目覚めとはならなかったが、高校生との接触で期待が高まっていたこともあり、初っ端から中高分かれての練習となったのは少々意外であった。ただミーティングの内容によれば昼食ののちに第一体育館前に集合とのことだったので、午後に合流することになるのだろうかと同校のチームメイトやライバル校の生徒たちと昼食の折に話し合いつつ。斯くて体育館へと足を踏み入れれば出迎えのジャック・オ・ランタンたちに度肝を抜かれたのだった。聞けばこれはハロウィンなる行事にあやかった歓迎会とのこと。体育館のあちこちに積まれているカボチャも、高校生たちがつけている変わったお面も、手渡されたお菓子入りの小袋もその行事の一種であるらしい。バスケのミニゲームをして勝てばお菓子を貰え、負ければそれを奪われるという単純な明快なルールながら、さりとて相手は強豪校として名を馳せている高校から集められた選りすぐりの選手たち。これは残機というよりも高校生と勝負が出来る駄賃のようなものだろうと思いながら、黒い袋に入った菓子袋片手に歩いていた折のことだった。)……、……えっ。俺っスか?(『そこの人』とはおのれのことだろうかと先ずは周囲を見回して、それから人差し指でおのれを指してはゆるりと首を傾げつつ、)……モチロン、いいですよ。俺ドリブルはけっこう得意な方っスけど、1on1自信ある感じスか。(全国区の選手と引けを取らぬ勝負をしたガード相手に小生意気な口を叩いては、バスケットボールを受け取って先行を貰う所存。)俺が勝ったらチョコレートでいいっスか。(ミートしつつ話すのは勝った時にもらう菓子の話。彼の反応が如何であれ、様子をみつつドリブルをつきはじめるつもりでいる。)
* 9/14(Thu) 22:52 * No.9
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他に誰がいんの。(律儀に周囲を見渡した上で自分を指差す相手には、随分とぶっきらぼうに響いたことだろう。)中坊なのにデケェな。ひゃく……八十くらいか?(やや距離があったとて、彼の体格の良さはいやでもよく見て取れた。自分がバスケットマンとしては小柄な方であり、中学生といえども強豪校には高校生顔負けの体格の選手が数多いるという知識はあっても、いざ目の当たりにすると改めてその事実を意識させられる。見上げる形になるのは不服だ、とばかりに元々あまり良くない目つきを細めながら、己との身長差をそれとなく測るように手のひらを動かして。予想していなかった強気な発言が飛び出ると、細く剃られた眉を歪に持ち上げて素早くパスを出す。ちょっと当たりは強かったかもしれない。)まーな。ドリブルならオレも負ける気がしねぇ。(インターハイ出場を笠に着るつもりは毛頭なかったが、夏の全国大会の二戦目での経験は、己の中で確かな自信として根付いている。これまでシュート練習に時間を割いて来なかった分、1on1となると攻めの幅が大分限られてしまっているが、それだって中に切り込んでしまえばいいだけの話だ。相手の足元、ボール、手の動き、目線――彼の顔一点を見つめているようで、その実全ての動きを視界に収めながら、出方を待つ。ディフェンスの構えを緩めないまま、しかし「へえ、まだ中見てねーけど、チョコ入ってんだ。好きなの?」なんて軽口を叩ける程度には余裕があった。所詮中学生だろう、という油断がそうさせている訳でなく、プレイ中も飄々としているのは元来の気質だ。)
* 9/16(Sat) 11:36 * No.10

……他にも中学生はたくさん居るんで。(デカさでいえば中学生の中でもおのれは確かに目立つものの、他に練習を望む生徒は幾らでもいるだろうと。もっとも周囲に他に中学生の姿はないゆえ、確認を取らずとも必然的に彼の指名はおのれになるのだけれど。)183……っスけど、測ったのが春なんでもーちょい伸びてると思います。……たぶん。(背丈を測るようなジェスチャーを加えながら、ぽつりと呟く。鋭く細まる眼光に睨まれているのだろうなと感じながらも、目付きがよろしくないのはお互いさまだ。見下ろす形となった彼には当然見覚えがあったものの、今更吐き出した言葉を撤回するつもりもなく、眉一つ動かさぬ太々しさを崩さぬのはいつものこと。パスを受け取れば手のひらがじんわりと熱を帯びもしたが、それも突っ掛かるほどではないだろう。)……でしょうね。(彼の県予選での活躍を思えばその言葉が虚勢でも見栄でもないことはわかりきったことだった。チームメイトたちと日頃練習を重ねてることもあり、おのれより背丈が低い相手と対峙するのには慣れているとはいえど相手は場数を踏んだ高校生。さて、如何攻めたものか。)……まあ、キャンディやマシュマロよりは……? クッキーは砕けてたら嫌ですし、消去法っスけど。(これもトラッシュトークのひとつだろうかとは思いつつも答えぬのはさすがに気が引けたゆえドリブルをつきつつも淡々と答えては、こちらも腰を落としてじっくりと彼と向き合おう。こののちチェンジ・オブ・ペースで隙をつくり、切り込んですぐスリーを放つつもりでいるが――恐らくそう簡単には抜かせてもらえなかった筈。)
* 9/20(Wed) 22:48 * No.15

(上級生から突然声を掛けられても物怖じせずに応じる肝の据わりっぷりを見て取って、へえ、と感心したように眉を持ち上げる。が、身長の話になるとすぐに唇をムッと尖らせて、その眉を怒らせた。相手はそのようなつもり毛頭ないだろうが、見下ろされて気分が良くなったことはないのだ。だが彼の目算通り、決して心底不機嫌になったという訳でもない。何せキレたら言葉より先に飛び膝蹴りが出るような性格だから。彼の言葉に「知ってんじゃん」と、額につけた面を親指で横にずらしながら口端をニヤリと持ち上げる。)あー……それ、オレもだわ。(消去法の言葉に、視線を一度宙へ逸らしてから、納得したような声を落とした。今から1on1をしようというのに流れる緩い空気は、傍から見ていれば滑稽に映ったかもしれない。派手な見た目と裏腹に、決して外交的な性格とは言えない。部活の後輩とすら、バスケット中以外で会話をしたのがインターハイを迎えた時期だった程だ。――ボールが床をつく音が体育館に響く。そのリズムに意識が研ぎ澄まされていく。耳慣れたリズムということは、つまり彼が高校生にも引けを取らないドリブル技術を擁していることの証左。であれば、所詮中学生だろうという慢心は捨てて向き合った。後ろに下がられて放られてしまえばこの身長では届きようがない。だから勝負は、投げる前――!)スリーで来るって読めてんだよ!(自分に利がある場面でミスマッチを突きたがる心理は嫌という程知っている。背の低い相手に対し、無理に中に切り込むよりも、ディフェンスを振り切って外から攻めた方が安全であると考えるのが筋のはず。手を上げられればボールに指先は掛からない。であれば、シュートフォームに入る直前がスティールの狙い目だ。鋭く伸ばした指先がボールだけを的確に弾いた。手元に戻ってきたボールを掌に吸い付かせるように弾ませて、「次、オレのオフェンスね」となんでもないように笑って――それから。)……そういや、名前聞いてなかったわ。オレは宮城リョータ。翔北のキャプテンだ。お前は?(ドリブルをしながら、呑気にそんなことを尋ねる。1on1が挨拶代わりなんてこと、よくあることだと共感してくれるだろうか。勝負が終わった頃には「お前のドリブルも悪くなかったぜ、ポジションどこ?」なんてすっかり彼に興味を持っていたはずだ。)
* 9/22(Fri) 22:35 * No.17

(あからさまに変化した雰囲気を感じ取れば、ああこの話題はNGなのだなとすぐに理解した。とはいえ訊かれたことを答えただけだと反省の姿勢を示さぬあたり豪胆というか図太いというか、彼の逆鱗に触れなかっただけさいわいといえよう。「そりゃあ、まあ」――この合宿に来ている中学生で、県予選を見ていない者の方が少ないのではないだろうか。三年生にとっては特に、どの高校に入学すべきか見定める場でもある。シード校の翔陽を倒した湘北の活躍は特にダークホースといっても過言ではなく、ポジションが異なる選手であっても目に焼き付いたものだった。)……んじゃソッチも勝ったらチョコってことでいいっスか。(消去法への賛同の意味をそのように勝手に捉えては小さく吐息する。試合ほどの緊張感をもってミニゲームに挑戦したという訳ではないけれど、斯様な状況下に於いても緩い空気でいられるのは間違いなく彼が場のペースを掌握していたからだろう。ゆえに彼が意識を研ぎ澄ませ、その眼差しが鋭利になるほど場は緊張感を帯びるのだ。おのれのドリブルが高校生に、それも全国経験のあるガード相手に何処まで通用するかはわからねどもこの身長差を、ミスマッチをつかぬ手はないだろう。抜いた瞬間、彼がボールを捉えるよりも前にすぐスリーを打ってしまう気でいた。打つ姿勢は、タイミングは、ポジションは、体がすべて覚えている。けれど、)……!!(そう簡単に行くはずもなく、シュートフォームに入るよりも先にボールが弾かれた。瞬時の読みや判断はもちろん、驚くべきはその速さ。瞬きの間の出来事に目を瞠り、ぽかんと彼手に渡ったボールを見つめては。)……行けると思ったんだけどな。(小さく悪態をついては負け惜しみとばかりに口角をあげて、彼の笑顔につられるように薄く笑った。)キャプテン……ああ、どーりで……。(三年生は夏の試合で引退することが多いのだったかと、ゼッケン番号を見て納得。形勢逆転、今度は彼がいつ抜いてくるかもわからぬゆえ、腰を落としては今仕掛けてきても対処できるようディフェンスの構えを取りながら、)……っス、回青中3年、江藤良です。(名を問われる頃にはすっかり不愛想に元通り。――この後、彼にお菓子を渡すことになったのはいわずもがな。顔にこそ出さなかったものの「シューティングガードです」とチョコレートを差し出しながら応える声は、ほんの少し悔しさが滲んでいた。)
* 10/2(Mon) 21:51 * No.18