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【4】11/23(月・祝):午前 第一体育館

(此日は祝日、バスケの合同練習もない。ゆえにこそ綿密に練られたスケジュールに縛られることなく自由にバスケをすることも叶うだろう。彼と同室になってから半月以上も経過すれば起床時間には多少の改善も見られ、彼がカーテンを開けた頃には起床するようになった筈。この日も小さくあくびを零しつつも手早く身支度を整えてはスポーツバッグを肩に掛け、)いこーか。(部屋を出るタイミングが被った折はいつもそうしているように彼へと声を掛け、しっかりと施錠したのちに第一体育館へ向けて歩き出すつもり。日差しがあるとはいえ空気は冷たく、「今日もさみーな」と両手をジャージのポケットに突っ込みながら呟く一幕もあったろう。)今日はゼッケンどうするかな……オトサカ君は希望ある?(移動の最中、ふと思い出したように呟いては窺うように傍らにいるだろう彼へと眼を向けた。合同練習中に於いては誰が何処の選手かわかるように基本にゼッケンを付けて臨んでいるが、此日は付ける必要もなし。もちろん自校の装いを纏ったほうが気合いが入るというならば彼に合わせるし、拘りがないようならばTシャツで臨む所存でいるけれど。まったくもってどうでもいい話題であるやもしれないが、こんなふうに他愛ない雑談を交わすことは好きだった。)
* 10/14(Sat) 00:19 * No.166

(目覚まし時計などなくとも体が楽しみを待ちきれずに跳ね起きてしまう朝、203号室のカーテンはいつもより少し早く引かれた。声をかけずとも起き上がるようになった彼の変化に一種の感慨を抱きながら、前日から準備万端のスポーツバッグを手にとって、)うん、行こう!(遠出のピクニックでもあるまいが、気合い十分部屋を出た。一年中が夏の母国と比べれば涼しいを通り越して寒さを感じて、彼の呟きには「来月はもっと寒いなんて信じられないよ」としかめっ面を見せもしただろう。)ゼッケン? どっちでもいいよ。おれとアキラの二人きりだもの。(識別のためという理由もなければ、お互いの顔さえそこにあればあとはなんでも構わない。彼とて自校のゼッケンを纏った方が燃え上がるといったタイプでもないだろうと思ったけれど、)あ、でも今日は勧誘の日だから、リョーナンのアキラです!って感じの方がいいのかな?(今日の目的を思い出せばくすくすと笑って。熱心な仙道彰、という概念がどうにもうまく想像できず、脳内に浮かんだコミカルな彼の姿がやたらと可笑しかったので。)
* 10/14(Sat) 16:52 * No.167

(そういえばキューバとは常夏の国であったかと、彼の珍しいしかめっ面を見遣っては「寒いの苦手?」とのんびりと問いかけた。つい数日前に降った雪にはとてもはしゃいでいたと記憶しているがゆえ、寒さが苦手という印象は正直あまり懐いてはいなかったのだけれども、それとこれとは話が別だろうか。)んー……それなら学校のシャツでもいいか。(重ね着はすればするだけ動きに支障も出る。けれど彼のいうように此日は勧誘の日なれば、おのれの学校をアピールする意味でもその名は背負った方がよかろう。頭に思い描いた衣服は彼と自販機の前で出会った半月前にも着ていたもの。程なくして第一体育館へと到着し、ひんやりと冷たい空気が満たす空間へと足を踏み入れては「ストーブつけとくから、オトサカ君は先に準備してていーよ」と声を掛けて足早に倉庫へと向かうつもりだが、もちろん彼の返答次第では一緒に倉庫へ向かうことも吝かではない。そう時間の掛かる作業でもないゆえ早々に更衣室へと向かっては、空いているロッカーに荷物を詰め込みつつ。)学校見学、どこまで進んだ? 確かあと一回くらい残ってたよな。(此日は勧誘の日なので、彼の学校見学の進捗でも伺おうという所存。ジャージの上着を脱ぎながら振る話題も、いよいよ合宿の大詰めを感じさせるものだっただろう。)
* 10/14(Sat) 23:54 * No.169

(日本と異なり四季のないキューバの気候は良くも悪くも緩急がない。ゆえに先日の雪のようなサプライズとともに齎される寒さは一種の刺激となって驚きをはしゃぐ気力に変えてくれるが、今日のように単純な冷え込みは楽しさがない分よく堪える。ゆえに苦手かと問われれば「うん。きらいじゃないけれど、得意ではないなあ」と素直に答えて。)ああ、確かに。リョーナンって書いてあるから丁度いいかも。(ゼッケンほど本格的ではないけれど、それで彼の動きが鈍るのでは本末転倒。いい塩梅の折衷案に頷けば、こちらはジャージの下に着てきた何の変哲もない赤い練習着をそのまま纏うことにして。)ありがとう。じゃあおれ先に更衣室に行ってるね。(寒風を遮断する館内に入ったものの、広々とした空間はすっかり冷え切っていたので彼の好意に甘えてさっさと小さな空間に逃げ込むことに。)えーと、リョーナン、ショーヨー、カイナンまで行って、来週はショーホクだよ。(少し遅れてやって来た彼の問いに答える頃にはジャージを脱いで動きやすいハーフパンツに着替えたところ。あとは上靴をバッシュに履き替えて、お気に入りのヘッドバンドを身につければ早々に準備は完了だ。)楽しみだな。おれと合いそうだってミッチーサンも言ってたし。
* 10/15(Sun) 13:22 * No.170

(暖房器具をつけたところで気休め程度にしかならないものの、動いていれば寒さも気にならなくなることは実証済みだ。コンプレッションウェアの上にバスケ部指定のシャツを着つつ、「湘北か」と聞こえた声に穏やかに笑った。)その赤いヘッドバンドにも似合いそうだもんな。(確かに彼の赤いヘッドバンドは湘北のゼッケンカラーによく映えるだろうと素直に思う。湘北の生意気な一年生コンビとも、彼ならばきっと相性はいいだろう。ということを考えてしまうあたり、勧誘にはまったく向かない男だった。)オトサカ君が湘北に入れば、オフェンスは県内でもかなり強力なチームになるんじゃねーか。(湘北にはオフェンスの鬼に、底知れぬ身体能力と才能を秘めた男がいる。そこに彼が加わることになれば更に中は強固になりそうだけれども、オフェンス力ならばうちの13番も負けてはいないと思うからこそ紡ぐ言葉は悲観的ではない。寧ろ来年湘北が如何な戦力を揃えようとも、それでも勝ちを確信しているような余裕すら感じさせるような声だっただろう。上下共にジャージを脱ぎ、斯くて着替えを済ませたならば、バッシュの靴紐を結んで立ち上がった。)けど、陵南もいいチームだぜ。練習はちょっと厳しいけど。(その厳しい練習の成果や、陵南の選手の魅力をバスケを通して伝えられたらいい。まずは体育館へ移動して、軽い運動で体をほぐしてから、はじめるとしようか。)
* 10/15(Sun) 23:32 * No.171

あ、アキラもそう思う?(彼の感想に思わず声が跳ねる。“合う”という言葉が示す意味はいくつも在れど、自分も真っ先に同じことを考えたので。好きな色など殊更主張せずとも半月以上も共に過ごせば乙坂の身の回りから察せよう。何事も好意がわかりやすい性質なのだ。好きな人間のタイプもまた。)おれもそう思う。ショーホクのビートは好きだよ。攻撃のテンポが速くて……でも時々おどろくようなところでリズムが狂うのもおもしろいよね。(褒められれば謙遜なしに微笑んだのは自分もまた己の持ち味が湘北と合うだろうと思ったからで、それに対する彼の声音があまりに他意を含まぬものだったからというのもある。勧誘と言っておきながらもその為に事実や本心を故意に捻じ曲げることはせず、それで機嫌を損ねることもない。淡々と自然体で話せるところが彼の好きなところだった。)ふふ、知ってるよ。(陵南もまた魅力的なチームだと、それを体現する男とずっと一緒に居たのだから。勧誘に熱心でないのと自校に愛がないのはイコールではないことも。)練習がきびしいのはきらいじゃないよ。だってキューバの音楽家ってみんなとても上手いんだ。なんでかわかる?(彼の反応が如何様なものでも、すぐに「上手くなるまでやるからだよ」と答え合わせ。見かけより地味な鍛錬を好むことも今日までの合同練習で伝わっていることだろうか。出した足に寒気が絡みつく体育館への道すがら、)どの高校もみんなバスケが好きないいチームだよね。(と結論づければ小走りで体育館に駆け込んで。それからウォームアップも欠かさずに、本番前の準備をしっかり終えればいよいよお楽しみの始まりだ。)さあ、どっちから始めようか。
* 10/16(Mon) 11:18 * No.172

(そういえば海南のルーキーもゼッケンカラーに合うヘッドバンドを身に付けていたなと、喜々とした彼のかおばせを微笑ましく見遣った。リズムが狂うとの言葉にその発端たる赤頭が脳裡に浮かべば、ふっと呼気を転がして同意を示すように頷くだろう。)色んな意味で読めねーからなぁ、あいつは。(けれど彼のいうようにそこが湘北の面白いところであり、驚くべきところでもあるのだ。これまでの合同練習で見てきた彼の身体能力の高さや独特なリズムはくだんの高校のルーキーにも通ずるものを感じているがゆえ、より“合う”と感じてしまうのだろう。ゆえにこそ折に触れて思い描くのはいつも彼と相対する何時かなのだと自覚しては、呆れたように溜息を吐くチームメイトの姿が脳裡を過るのだった。)オトサカ君も努力家ってことか。(生まれ持った身体能力もあるだろうが、バスケに関しては練習の積み重ねも大切なことだ。などとは練習をサボりがちな男が言えた台詞ではないのだけれど、彼が『上手くなった』のも恐らく努力の賜物だろうと思うゆえ、答え合わせには緩く笑いながらそんなふうに応えた筈。いずれの高校に属することになろうとも、きっと彼の未来は明るかろう。しかして幾つかシュートを打つ頃には体も十分にあたたまり、)お先にどーぞ。ルールは歓迎会の時と同じでいいか?(手にしていたバスケットボールを彼の手許へとパスしては、まずはお手並み拝見といわんばかりに先手を譲ろう。)
* 10/17(Tue) 22:14 * No.177

うん。おれも練習はすきだよ。まだ上手くなり終わってないから、もっとしなくちゃいけないけどね。(なにせ素人からの出発だ。以前と比べれば上手くなったが今はまだ発展途上、今後はもっと上手くなると意気込めば、そのための反復練習も苦ではない。彼に倣ってシュートフォームの確認も終えれば、)オーケー。じゃあおれからね。(ルールは簡単。まずは彼からゴールを奪い、そのうえで彼のゴールを阻むこと。受け取ったボールを軽くドリブルして、己のリズムを整える。乙坂はキレのリズムが弱い。つまりは立ち上がりのスピードと打ち込みの強さ、すなわち瞬発力に欠けるので、速攻オフェンスはさほど得意な方ではなかった。スタートから相手の隙を見て一気に抜き去る――それこそ湘北の電光石火のごとき選手のような機先を制する一撃必殺、とはいかず、一対一の時はいかに自分のリズムに相手を引き込むか、その駆け引きに時間をかけるタイプである。ダム、ダムと二人きりの体育館にボールが跳ねる音が響く。それは比較的ゆったりとしたビートで、腕や脚の長さを生かしたしなるような動き。重心が高いのも日本のバスケット選手とは異なるところだ。)アキラは、どんな選手がほしい?(彼ならばまずは此方の動きを見定めるためにいきなり仕掛けてはこないだろうという意識もあり、身体とボールとリズムを馴染ませるかたわら話しかけるも、完全なる雑談というわけでもなく黒い瞳は彼の体の動きを見つめ続けている。彼の視線ではなく脚や腕の位置、筋肉の弛緩、重心の移動、それらから次の動きを予測するように。それでいてその答えにも興味はあった。陵南に足りないもの。あるいは彼個人の好みの話に。)
* 10/18(Wed) 00:17 * No.178

おう。いつでも来い。(中学生とはいえ彼は白鳥中のエースフォワード。いくら負ける気はしないといえども油断はならない。ワンアームの距離でつきながら、彼の全身の動き、ボールのリズム、軸足、フリーフット、目線、あらゆるところに意識を向ける。幾分か重心が高いようにも感じるが、身長のミスマッチもあり然程気になるところではない。重心を低く保ち出方を窺う傍ら、ふと飛んできた質問にはひとつ瞬きをついてから。)んー……まずはロングシューターだな。次にセンター。後進のことを考えるんなら、積極的に攻めていけるフォワードもいれば心強いってところか。(外からのシュートに関しては今後おのれにも課していく課題とはいえ、外から攻める手段も選べるようになればそれだけ戦略の幅は広がるし、相手チームにとっても脅威となろう。中からのシュートならばそうそう外す気はしないが、外から射抜く選手の脅威は海南や湘北との試合でよくよく味わったことだった。ゴール下に関してもいざとなれば自分がカバーするとはいえ、やはり絶対的なセンターは今後必要になってくる。センターとしての成長を期待されている後輩の今後を思えばこそ、控えとしても将来有望なセンターは欲しいというのが本音だ。陵南に足りないところ、全体的な選手層を鑑みれば欲しい人材はそんなところ。けれど、「それはそれとして」個人的な意見を挙げるなら。)オレの動きについて来られるやつかな。(キャプテンとしてではなく男自身の慾を挙げるとするならばそんなところだと薄く笑っては、)こねーならこっちから取りに行くぜ。(そんなふうに挑発をかけてみせるだろう。)
* 10/18(Wed) 14:42 * No.180

(正直なところ勝てる気はしていない。けれどもいい勝負をする自信ならあった。対峙する目が互いに出方をうかがいながらも、交わす言葉ばかりは和やかに。)うん、うん。(相槌の裏拍をとるようにボールが体育館の床を叩く。本音を言えばもっとあっさりとした答えが返って来るかと思っていた。彼がこうも真剣にチームの全体像をよく見据え、冷静な分析を紡ぐとは思っていなかったので頷きは少々感心の響きを孕んでいただろう。)リョーナンはディフェンスがいいチームだもんね。(欲しい人材を裏返せば今のチームの強みとなる。オフェンスの優先度が低い理由も言わずもがな。なるほど、と呟きながら、ボールをつく速度を徐々に不規則に変えていく。会話をしながらでも全く異なるリズムをとるのは慣れたもので、彼の意見を聞き終えてそろそろ勝負所だろうか、そんな風に思った矢先。次いだ欲を耳にすれば、)…あはっ、それ、おれのことだよアキラ!(笑う彼に重ねて笑った。ロングシューターとしての圧倒的な技巧、センターとして他を蹴落とすパワーや高さは持ち合わせないが、ただ相手の動きについて行くこと、それなら心底自信があった。)うん、来ていいよ。(微笑みと緊張を絶やさずに。挑発通り彼が仕掛けてくるか否か、いずれにせよ睨み合うだけの膠着状態は長くは続かないだろう。そうしてそこから短くない攻防が繰り広げられるだろうか。やがて彼の手がボールを捉えようかという瞬間、乙坂は大きく体勢を崩した。傍目には。)――だめだよ。まだあげない。(しかし長年生きるとともに鍛えられてきた動的バランス能力の高さは乙坂の強みだ。重心の移動に対する身体バランスの許容が日本人に比べて大きく、普通ここまで行ったら倒れるだろうと思うところで倒れない。そこから流れるように別の動きに移っていく。まるでバランスが“崩れた”のではなく敢えて“崩した”ように見える。初めから決まったダンスの振りのように。)そろそろ行くよ!(そのまま虚を突かれてくれればいいが、そこは陵南のエース。天才オールラウンダー仙道彰だ。そう簡単に抜かせてくれるか。上手く抜けたとして、今ばかりは堅実なレイアップシュートで挑む背後を守ってくれるチームメイトは存在しない。)
* 10/19(Thu) 00:06 * No.181

ああ。先生の指導がいいからかもな。(冗談めかして告げたものの、日々の厳しい積み重ねが力になっているのは事実。ディフェンスは経験の積み重ねでどうにかなるところは多いが、しかしオフェンスばかりは一概にそうもいかぬゆえ才ある者の勧誘も重要視されるのだろう。元より多くは語らぬ性質、されど斯様にも多く言の葉を吐露した理由はバスケの最中であったからなのかもしれない。あまり他者に打ち明けることのない心の内を吐露したのも、きっと此処がコートの上であったからだ。おなじく笑う彼の口から言葉を聞けば、薄笑いが不敵なものへと変化する。そういう自信が、それに伴う闘志が、こちらの心を熱くさせてくれるから好ましいと思うのだ。)ついてこられるのか?(出会った折より彼に見出した可能性。それを改めて見定めるように対峙しては、挑発を放ってから幾許かは彼のボールのリズムを覚えんとするような膠着状態が続いていた筈。彼が動きを見せるならば抜かせぬように阻止しつつ、されど隙を見て彼の手からボールを奪わんとするような、守りながらも攻めるディフェンスに徹しただろう。しかしてボールを捉えた、と思った矢先。)……!!(大きく体勢を崩したと思われた彼の身体は、しかし実際には“保たれていた”のだと気付いたのは指先が空を切った瞬のこと。常識を覆すような身体能力を前に瞠目し、僅かばかり出来てしまった隙を、無論彼が衝かぬ筈もないだろう。――抜かれる。だが、それならば彼の動きを読むことも容易い。)あめーよ…!(レイアップに跳んだ彼の背後からしなやかに腕を伸ばし、ボールが軌道に乗る前にその手より弾き落としてしまおう。恐らくフェイクはないと見ている。瞬時の判断、踏み込んだ距離、身長差、あらゆるものを加味してもブロックは間に合うと踏んでいるがさて如何であったろう。先取点を取られたならば「やるなぁ」と感心したように零すだろうし、防げたならば「あぶねー」と息を吐きながらひとりごちては、)さすが、いうだけのことはあるな。……実際対峙してみるとお前の凄さがよくわかるよ。(この合同合宿中はポイントガードに徹していたこともあり、対峙する機会を得なかったのが惜しいくらいだ。しかしまだ息があがるほどではない。弾いたボールを拾いながらにこやかに紡ぐ顔貌は、余裕を感じさせるには十分だっただろう。)
* 10/19(Thu) 22:45 * No.184

ついて行くよ、どこまでも。(得意のタメを使ったリズム崩しは大きな実力差を埋めはしても完全に無きものにはできず、一瞬の隙を見せれば終わりというスリルがある。そうした強者との攻防は徐々に精神と身体を疲弊させていくものだが、乙坂の場合はむしろ全身の神経が研ぎ澄まされていく。元々スタミナが豊富なことに加え、連続曲線的ななめらかな動きは揺れる柳のように躱すことに余計な力を使わない。ゆえに疲れにくく、身体の疲労が精神を侵すこともない。心臓から血液が流れ出るときの脈打つ感覚はノリのリズムによく似ていて、余計に気分を高揚させた。)…よしっ!(そうして彼の動きについて行くこと翻弄することを楽しんで、自らに生じた隙を相手のものと入れ替えることに成功したなら、崩れた体勢はむしろ次の動きの動力となる。そのまま倒れこむように上半身を沈ませて、その勢いで彼を抜き去る。そこまでは見事だった。)――…あっ、(けれど、すぐさまシュートに行かず手堅くドリブルを重ねて跳んだのは彼に追いつく猶予を与えたのと同じこと。先に跳んだ乙坂に間に合うだけの素早い戻りと身長差によるアドバンテージ、それに迷いなき判断が彼の好ブロックを生み出した。ボールを放ちきる前に弾き落とされれば指先に振動が伝わるほど。あと一歩。ついては行けたが、振り切ることはできなかった。)んー、おしかった!(それでも心底悔しがるより、その妙技を噛み締めるような顔をして。)でしょう? でも、完全に行けたと思ったんだけどなあ。やっぱりうまいね、アキラは。(褒められれば一層嬉しそうに微笑んだ。失敗はけっして乙坂の心に影を落とさない。攻略しがたいものほど余計に燃える性質なので。)シュートの前にもう一回フェイク入れておけばよかったかも。(お互いに息切れにはまだ早い。反省点も得られたならば、)さ、次をやろう。今度はおれのディフェンスね。(早速続きをねだってみせた。1on1はまだ始まったばかり。次で彼を止めればスコアは同じになるのだから。)
* 10/20(Fri) 00:32 * No.187

(伸べた手は目論見通りにボールを弾き防衛成功と相成ったが、しかし惜しいと彼が零したように此方の予想していた以上の動きをみせられたものだった。悔しがるのではなく寧ろ楽し気にも取れる声を拾えば勝負を純粋に楽しんでいることもわかるから、続く言葉にふっと呼気を転がして。)次は抜かせねーよ。(予想だにしない身体のしなやかさには驚かされたが“次”はない。彼もまだ全てを曝け出してはいないだろうが、それでももう先刻のように容易に抜かせはしないとさっぱりと言い切っては、ゆっくりとドリブルをつきながら彼の前まで歩みを進めていく。)だとしても見切ってたさ。(終わった勝負の手前なんとでも言えようが、例え彼がフェイクにきてもそれを見切る自信はあった。それだけの強敵とまみえ、経験を重ねてきた自負がある。唇は緩い弧を描き、対峙している彼の双眸を見据えては、)オーケー。止めてみせろよ。(いつでも速攻出来るよう重心を低く保ち、先刻彼がしたようにゆったりとしたリズムを刻んでゆく。ここからボールのスピードに緩急をつけ、チェンジオブペースで仕掛けるのが定石だ。僅かな隙を見逃さぬように、或いは攻めるタイミングを見計らうように眼差しは彼より逸らさぬまま、ボールが床を叩く音が幾度目か響いた頃に事態は動くだろう。ダンッとボールが床を打った瞬間に踏み込んではそのままドライブに行く――と見せかけて、レッグスルーを挟んでから素早くシュートモーションに入る。身長差のアドバンテージは此方にある以上、ブロックに来るならばそれを埋めるべく彼は素早く動く筈だ。運動量を思えば恐らく背丈の不利を埋める高いジャンプは有しているだろう。ならばと、彼がブロックに来ると読んでは軽く後ろに跳び、手首のスナップをきかせてボールを高くリリースせんとするが、こちらの想像力を彼が上回るか否か。さてこの読み合い、どちらが勝利を収めるだろうか。)
* 10/20(Fri) 23:27 * No.188

(“天才”という他称が大袈裟でないことは重々承知の上だったが、いざ一対一で真正面からその力を目の当たりにすればやはりとんでもない男だという感想が生まれ出る。乙坂の独特のリズムを一度の対峙で見切ったとは言わないまでも、一瞬の驚きをカバーして余りある能力に尊敬の念を抱かずにはいられない。ゆえに自然なリズムチェンジとフェイントを得意とし、フェイクと本気のスイッチをぎりぎりで入れ替えることができる乙坂の強みを前に、「だとしても見切ってた」と断言されて怒るどころか納得が先に来るのだから、)うーん、本当にそうかもって思っちゃうのがくやしいな。(その妥当な自信を好ましく思う一方、余裕を描く唇をゆがめたいとも思うのだ。)うん。そう簡単に終わらせないよ。(向けられた目に真摯な視線を返しては、過剰ではない自信をまとわせて笑いながら。そうしてボールが彼のリズムを刻み出せば、耳を澄ませ、脳内で鼻歌でもうたうように転じる先の音、そのタイミングを見定めんと自らの体もリズムに乗せていく。リズムを崩すのが得意ということは、合わせるのもまた得意ということだ。──乙坂のディフェンスの特徴は脱力にある。通常守ろうとするほどに意識が筋の緊張に結びつくが、乙坂にはそれがない。端から素人には経験に基づくブロックなど無理なのだからと、相手の動きを“見て”からその先を読んで対応しようなどとは思わない。リラックスした状態はむしろ初めから隙だらけで、同時に最速で後手に回る気満々のディフェンスだ。)…っ!(だからと言って容易く追い抜かれる気も更々ない。しっかりとした弛緩動作こそ次なる緊張動作、すなわち勝負を仕掛けた彼の行く手を瞬時に阻むためのタメとなる。合図のように大きく床を打ったボールの音を聞けば、彼の足先に作られたドライブレーンに己の体を。しかし次なるボールの音が来ない。つまりレッグスルーすらシュートのためのフェイクと知れば、彼がシュートモーションに入ると同時に高く跳んだ。177センチが190センチを止めるためには迷わず飛ぶ。)え、(だがそれすらも見越していたのだろう。通常のシュートよりもボールが描く軌道は高く、)ニョ〜〜〜!!(驚きと興奮に思わず叫んだ。それでももがき、1センチでも高くと伸ばした指先。微かに爪先がボールに触れはしたが、軌道を完全に逸らすまでには至らなければ、その行く先は運任せだ。)
* 10/21(Sat) 22:41 * No.190

(並外れた身体能力。くわえて彼独特の運動性。それらを評価しているからこそ慢心はせず、念には念を重ねて対策を打った。ゆえにおのれの動きに反応し、ブロックに跳ぶところまでは想定内。――だが、)お、(それでもなお、その指先が届くとは。想像を上回る彼の身体能力に驚きを隠せず、素直に双眸を瞠っては思わずボールの描く軌道に眼差しを送っていた。彼の爪先が触れたことにより若干軌道にズレが生じたようで、ボールがリングの縁に当たった折こそひやりとしたものの、無事にリングの内を通ったさまを確認してはふっと安堵の息を吐くだろう。此度はさいわいにもリングを潜りはしたが、危うく阻止されるところであったことに変わりはない。警戒を打った上でのシュートだったというのに、これでまだ中学生というのだからまったく末恐ろしい男だ。)まずは1勝、だな。(人差し指を立てて数を示し、口角をあげて薄く笑っては、)しかし、すげー跳ぶなぁ。まさかボールに届くとは思わなかったよ。(ははは、と緊張感を解くように軽口を叩くだろう。跳躍力は然ることながら、おのれの動きについてこられたという事実も彼の秘めたる能力を感じさせるには十分だった。結果としては此方の勝利となったものの、彼へと眼差しを向けたなら当たり前のようにこう紡ぐのだ。)まだ続けるだろ? ようやく体があったまってきたところだもんな。(彼が諦めずに挑むというのなら何度でもその挑戦を受けて立つし、得点を取られるようなことがあれば次できっちりと点を返してゆくつもりだ。そうしてこれをあと十数回と続けていけば、彼の身体能力と対峙することを思えば次第に息も乱れてくるのだろう。けれどそういう時こそ楽しそうに笑う男でもあった。やはり勝負とはこうであるべきだと、強敵との試合の折にも感じることを今も感じながら。)
* 10/23(Mon) 15:02 * No.193

(意識を持った指先ではなくほんの爪の先、触れたというより掠めただけでは美しいアーチを乱すことはできなかった。着地と同時にゴールを振り向けば、どうやら彼の理想からは僅かにずれたようだが、それでもリングの中に入ることが約束されたボールの行方をしかと見つめて。)あーあ。(それから勝利を示す人差し指を見てため息を。手ごたえからして予期できた結果ではあるものの、ちょっとばかり運命の女神とやら信じてみたのに。)負けちゃった。(勝敗以上に彼と対峙する楽しさがあったとはいえそれはそれ、これはこれ。)まあ、跳ぶのもダンスの基礎だからね。(跳躍ひとつとっても乙坂の体の使い方はバスケ選手としてのそれではない。称賛を受け取りつつも、「でも、ぎりぎりふれただけじゃダメだったみたい」と。ドリブル勝負ならしつこく食らいつく気でいたが、中に入る前にシュートを打たれてしまえばやはりディフェンスとしてはまだまだだと思い知らされ苦笑した。それに跳躍の高さは思い切りのおかげでもある。ディフェンスとしての経験値が無いからこそ、身長差を埋めるためには迷わず高く跳ぶしかなかった。とはいえ必要以上の謙遜も卑下も知らぬ男は反省はすれど落ち込むなんて勿体ない時間の使い方はしない。彼の眼差しを受け止めれば、もちろん、と微笑んで。)まだ勝ってないもの。次はおれが点を入れるし、守り切ってみせるよ。(豪語は強がりではなく宣誓の一種。言葉通り、その後は一瞬たりとも気の抜けない1on1が幾度となく繰り返される。「負けた」と認めることと降参することは同義ではなく、「もう1回」を何度でも。そうして割合でいえば十分の一にも満たない勝率だったが、宣言通り彼からボールを、ゴールを奪う瞬間もあったろう。疲れて、身体が重くなるほど頭はひどく冴えわたる。楽しい、勝ちたい。ただその二つだけを掲げて走り回る時は最高の永遠にも似た時間だった。)――……はは…だめだ、もうおなかすいちゃった。(やがて先に限界を迎えたのは体力ではなく腹の虫だったろう。水分補給くらいは挟んだろうが、ぶっ続けの勝負に空腹を覚えて床に転がった。)でも……ふふ、たのしいねえ。ありがとう、アキラ。(仰向けで大の字とは礼を言うに相応しい体勢ではなかったけれど、その分気負いなく、素直な感想がこぼれ落ちて。)
* 10/24(Tue) 00:18 * No.196

(勝負は勝つからこそ面白い。無論敗北したら楽しくないというつもりはないものの、勝負事は矢張り勝てるならば勝ちたいと思うものだ。ゆえにこそ彼の中に渦巻いているだろう感情も、その呟きに乗せられた悔しさも理解出来る。しかし彼自身この結果に納得していないかもしれないが、たとえ指先でもボールに触れられたこと事態が驚異的なことであった。ディフェンスはまだ不慣れであるようだが、それがモノになった時一体どんな怪物が生まれるのだろう。期待を裏切らぬ強気な発言を聞けば ふ、と思わず笑みも零れる。)さあ、来い。(その言葉が決して虚言ではないと身を以て知っているからこそ、これは少し締めてかからんと足許を掬われそうだ、と腰を落としてはディフェンスの姿勢を取った。――そうしてどれだけの時間、真正面から対峙していただろう。時間の経過と共に体育館にも人が疎らに集まり始めていたが、それも気にならぬほど勝負に没入していたように思う。遂に床に転がった彼の傍らで乱れた息を整えながら、顎まで伝った汗をシャツで拭っている最中。ふと聴こえた声にはきょとんと瞬きをついたのち。)あっはっはっは。そっか、腹が減ったんじゃ仕方ねーな。(疲れではなく空腹を訴えるとは面白い男だなぁ、と顔貌に自然と笑みが広がった。とはいえ疲れているのは男とて同じ。休憩を挟みながらではあったものの、そろそろ休憩を提案しようと思っていたところゆえ丁度よかった。)そーだな。おもしろかったぜ、オトサカ君との1on1。(有意義な時間になったのはこちらもおなじ。ふぅ、と一息ついてから穏やかに言葉をかける。)昼飯食ったらまたやるか? 今度はチーム戦でもいいぜ。(陵南のチームメイトの何名かは此日も各々練習に励んでいるだろうし、そうでなくても体育館を利用している中高生に声を掛ければ即席チームを作ることも容易だろう。問い掛けながら彼へと眼差しを向け、)それとも午後はどっか行くか?(今日は彼にとことん付き合う日であるゆえに。彼の望みを問うようにのんきに笑うのだった。)
* 10/24(Tue) 19:13 * No.198

(ぐう、とまた腹が鳴る。仕方ないと笑う彼に返事をするように。「えへへ」と笑うも照れた様子はなく、自分を繕うということを知らぬようにごろりと寝ころんだまま、)うん。(彼ほどの男を楽しませることができたなら光栄だと頷いて、ヘッドバンドを外して一息ついた。それから穏やかに降る言葉を聞けば「うーん」と今度は少し悩んだ声音にて。第一の提案で終われば即座に「やる」と答えるつもりだったが、第二の提案もまた魅力的だったので。ゆっくりと身を起こして乱れた髪を整えながら、いつの間にか人の増えた体育館を眺めて暫し。)じゃあ、どっか行こうか。今日はアキラと二人でいたいな。(やがて結論を出せばすっくと立ちあがり、早々に支度を整えよう。もし何処へ行くのだと問われれば「アキラも好きなところだよ」とそれだけ返して。──して、更衣室にて着替えを済ませ、アパートにて外出の準備を終えてのち、街に繰り出し、道中食事を済ませてから藤沢駅で電車に乗った。それは初めての学校見学の日、彼と一緒に乗った電車。自ずと目的地は分かるだろうか。よく晴れたオフの午後、車窓から見える海は青く、きれいだった。)
* 10/25(Wed) 01:06 * No.200

いいよ。じゃあ一旦部屋に戻ってから出よーか。(汗も掻いている手前、外へ出るならば相応の格好に着替える必要があるだろうと。しっかりと立ち上がった彼と連れ立って体育館を出たのちは一旦アパートの部屋に戻り、支度を整えてから外へ繰り出すことになる筈だ。場所を問うた折、返った言葉には「オレも?」ときょとんとしたけれど。なるほどそういうことかと電車に乗ってから把握した。海で釣りをするのも好きだけれど、なにをするでもなくただぼーっと青い地平線を眺めるだけということも好きだった。この間釣りに訪れた折は波止場にも雪が積もっていたけれど今は既になく、磯の香りを纏う風が微かに髪を揺らせば、電車移動で縮こまった身体をぐーっと伸ばして。)風が気持ちいいなぁ。(気持ちいい、と称すには些か冷え込むけれども。この海から吹く風が男は好きだった。傍らにいるだろう彼へと眼差しを向けては、)行きたいところって海だったんだな。のんびり話でもするんなら、途中の自販機で飲み物買えばよかったか。(浜辺で波打ち際を歩くにしても、波止場で座って話すにしても、いずれにせよお供の缶ジュースは欲しかったかもしれないと紡ぐ言葉は、ゆるい笑顔を浮かべながら。)
* 10/25(Wed) 22:06 * No.203

(アパートに戻った折に、しっかりとしたウィンドブレーカーを羽織っておいたのは正解だった。車窓から見るよりも眼前に広がる海は一層美しかったけれど、初冬の海風から一層ひややかな出迎えを受ければ「ぴゃ」と驚きとも悲鳴ともつかない声をもらして。)……うん。(けれども「気持ちいい」という感想には同意して。日本と同じく海に囲まれた故郷だったが、あの頃はこんな風に気軽に海辺を訪れることはなかったなと思いながら。彼が時折纏って帰って来る潮の匂いが海のそれだと気づくのにも随分と時間がかかったものだ。乙坂の中では仙道彰から連想できるものの一つが海だった。だからだろうか、)なんだかアキラと海が見たくて。(思い立って此処へ来た理由ともいえない理由を述べてのち、彼の言葉に「そうだね」と頷けば、)じゃあ、勝負しようか。負けた方が勝った方の言うことを聞くんだよ。(子供染みた思いつきをまたひとつ。二人で自販機まで戻ったって良かったけれど、なんとなく。とはいえ何の勝負にしたものか。ツンとした彼の髪が風に揺れるのを面白そうに眺めながら、)バスケはむりだから……そうだな、クイズはどう? おたがい自分についてのクイズを出して、当てた方が勝ち。二人ともわからなかったら……はは、その時はいっしょに自販機までもどろうか。(結局彼とともに歩き、話をしてのんびり過ごすことができるならなんだってよかった。提案も話題の一環に過ぎず、もしも彼が渋るようなら勝手に故郷の歌でもうたいながら飲み物を求めて歩き出すつもり。いずれにせよ、返答を待つ間に鼻歌で奏でたのもやはり、いつか彼にも聞かせたキューバの音楽。ゆったりとしたメロディが午前中とは打って変わって二人の時を穏やかなものに変えてゆく。)
* 10/26(Thu) 01:09 * No.207

(基本的に、海に来る時はいつもひとりだ。後から誰かが来ることはあっても斯様に連れ立って此処へ来たのはもしかしたら彼がはじめてだったかもしれない。傍らで冬の潮風の洗礼を受ける彼へと微笑ましげな吐息を零したのち、眼差しは再び青い海へと向く。季節が変われば海の様子もまた変わるもので、今の時期は夏よりも海水が澄んでいる。夏の海は陽射しを反射して輝いて見えるけれど、青の濃さでいうならば今の季節の方が綺麗に映る。此処へ来た理由を聞けば、なるほどと破顔して。)そっか。そりゃ嬉しいな。(社交辞令のようにありふれた謝辞ではあったが、心からの言葉であることに嘘はない。最早勧誘という目的もすっかり忘れて、ただ彼と過ごす休日を楽しむように傍らに海を臨みながらのんびりと歩みを進めている。勝負の言葉には「いいよ」とあっさりと言葉を返し、先を促すように彼を見据えて。)自分に纏わるクイズか。うーん……そーだなぁ、(彼と過ごすようになってからすっかり耳に馴染んだメロディへと耳を傾けながら、悩むような仕草をしたのもほんの少し。閃いたように人差し指をまっすぐと立てたなら。)じゃあ、オレの好きなもの。なんだと思う?(にこやかに笑いながら、ひとつクイズを出したのだった。元より難しいものを出すつもりはなく、ひょっとしたら彼には物足りなかったかもしれないけれど。一ヶ月近くも一緒に過ごし、此処へ連れてきてくれた彼ならば、きっと答えてくれるだろう。)
* 10/26(Thu) 22:29 * No.210

(「嬉しい」は「嬉しい」、「好き」は「好き」。二人は同じ言語で話しているから、彼といると言葉の裏側を考えるということをしなくて済むのが楽だった。沈黙はリラックス、微笑みは喜び、「いいよ」は「いいよ」だ。ふんふんと緩やかなメロディが彼のシンキングタイムのBGMと化していられたのはわずかな間。仙道彰クイズの内容が決まったことを告げるように、ぴんと伸びた指が出題の合図となったのにつられて彼を見遣り、)好きなもの?(そのあまりに漠然とした内容に思わずそのままの音を舌に乗せて。疑り深い人間であればこの抽象的な問いにかえって頭を悩ませたのかもしれないが、そこは楽天家の乙坂。にこやかな笑顔を目の前に「え、かんたん」と瞬いてのち、)海でしょう?(迷わず答えた。だって“一番”だとか余計な条件はなかったので、)それから、バスケ。釣り。魚。コロッケパンとチョココロネ。寝るのも好きだし、リョーナンのみんなと、それから…(指折り数え、今日までの付き合いで知り得た彼の好きなものを挙げていく。こんなに沢山彼の好きなものを知っているよと教えるように。そして途中で「あ」とひらめき、)おれ! おれもでしょう!(うぬぼれの強い答えも追加しておく。好意を示すことに何のためらいもなく、「ちがう」とは言われぬだろうと信じ切った黒い瞳に彼をくっきり映しながら。乙坂の知る仙道彰は「嫌い」「苦手」といった言葉をあまり口にしないので、そういう意味では大抵のものは正解になってしまうのだが。)かんたんかんたん。(勝利を確信した男は誇らしげに腕を組み、「じゃあ今度はおれの番ね」と出題者の交代を言い渡す。)えーと……あ、おれは何月生まれでしょう!(そうして彼と比べれば限定的な、ただし12分の1の確率で当たる問題を。誕生日を教えた記憶はなかったが、おしゃべりゆえに何かの折に名前の由来について話したことはあったかもしれない。彼とともに見ることは叶わなかった輝く海が見られる季節。母国では革命の日として尊ばれる日に自分は生まれたのだと、そんな自慢をしたことも。)
* 10/27(Fri) 01:09 * No.211

(漠然とした問いだからこそ不正解はなく、彼のことならば色々と解釈を広げてくれるだろうと信頼はしていた。しかして挙がるだろうなと思っていた答えが迷いなく返されたならば「当たり」と、にこやかに返そうとして――)……、(しかし薄く開いた口から言葉が零れるよりも先、彼の口より『それから』が紡がれたものだから、なにも言葉を発することなく男の口は静かに閉じた。バスケにはじまり釣り、魚と、挙げられてゆく数々はこの一ヶ月弱の間に彼に話したものだった。おお、と驚いたようにゆっくりと瞬きをついたのは、彼が日常の些細なことを覚えていたことは勿論のこと、自分にはこんなにも好きだと思えるものがあったのかと言葉にされて気付かされたがゆえ。そして締め括りに彼自身が挙げられれば、なんの躊躇いもなく告げられた思い切りのよさを好ましく思ってこそ、ふはっと破顔するのだった。)そうだよ。(先に挙げられたものも、彼自身も、どれも好ましく感じるものである。元よりなにを挙げられても大体「当たり」を告げられるだろうと思っていたけれど、これでは白旗を振るしかないだろう。眼差しを重ねて、完敗ですと告げるように緩く笑った。)さすが、よく覚えてたな。まさかこんなに挙がるとは思わなかったよ。(そう、精々ひとつかふたつ。わかりやすいものだと、海かバスケくらいだと思っていたので。斯くて出題者が彼へと移れば、出された問題に考えごとをするように眼差しを逸らして。)夏海君だから7月、いや6月とか? はは、革命の日っていうのは覚えてるんだけどなぁ。キューバのこと、もう少し勉強しておくんだったよ。(彼と交わした言葉は覚えているものの、肝心な革命の日がいつかは勉強不足だった。夏の海と書くその名前から推測するならばパッと思い浮かんだ季節は7月、そして6月だが、彼のように自信はない。ゆえに、)負けた方が勝った方の言うことを聞くんだっけ。オトサカ君のお望みは?(自販機でジュースを買いに行くのでも、他の願いでもなんでも。さて、彼はなにを望むのだろうと耳を傾けよう。)
* 10/27(Fri) 21:29 * No.215

(降参を示す彼の瞳を見つめながら、)おれもアキラが好きだよ。(日常にさまざまな愛の歌があふれた国で育った男は、予想通りの言葉をもらって微笑んだ。)おぼえてるよ。ぜんぶ。だってみんな見るたびにアキラを思い出すんだもの。(海も、釣りも、魚も、パンも。バスケ以外の、この合宿で彼を通して得た知識は全て仙道彰に紐づけられているから。あれ以来、購買に寄れば陵南の教室で食べた昼食を思い出し、食堂で魚のメニューを見れば彼はこれを食べただろうかと考えて、海にまつわる印象については前述の通り。日常にひそむ今まで意識せずにいたものが、合宿を通して少しずつ見つけると嬉しいものに変わっていった。)――……ふふ。(それから出題者側に回って彼の思案顔を眺めるなか、不意に笑いがこぼれたのは珍しい呼び方のせいだ。)うん。革命の日は合ってるよ。夏生まれだから夏海なのも。正解は7月26日。7はほら、おれとアキラの番号!(そうして二択から絞られぬまま彼が潔く降参したなら、「あーあ、おしかったのに」と自分事のように悔しそうに呟いて。しかし厳密には半分合っていたわけだから、)おれのお願いは……うーん、迷っちゃうから、歩きながら考えてもいい?(促すように彼の袖をくいと引けば、体の向きが示すのは通り過ぎてきた自販機の方。彼一人に買いに行かせるよりも二人で行ってその道中も喋りたがった。たとえば「おれが生まれたのはどこでしょう」「ヒントは病院でも家でもないよ」だの、「アキラの誕生日はいつ? あ、待っておれが当てるから!」「えーと、あ、もしかして7月?」だの。1on1クイズの延長戦を勝手に開催しては楽しんでのち、)……あ、これがいいな。(辿り着いた自販機の中からお目当ての缶を選んでボタンを押した瞬間、ふと思いついたのは保留にしていたお願い事の話。)おれ、アキラといっしょに海が見たいな。夏の海。(それを紡ぐのは白地に水色の水玉模様がさわやかな、夏らしいデザインの缶を手に取りながら。)
* 10/28(Sat) 00:10 * No.217

(後輩や仲間から尊敬を向けられることはあるが、斯様に素直に好意を示されることは中々ない。されど照れることもなく、無垢な瞳を笑顔で受け止められるあたりに男の性質が窺えようか。男も彼とおなじように、好ましいと感じた人間に対して比較的好意を隠すことなく友好的に接する性質だった。)はは。それはいい思い出になったってことでいいのかな。(一ヶ月という短い時間ではあったけれど、この合宿が彼にとって有意義なものとなったのならばなによりだと表情をやわらげる。斯く言うおのれもまた、例えば朝に、こうして海岸線を歩いている時に、ふとした瞬間にこの合宿のことを思い出すのだろうと思う。けれどだからといって感傷に浸るようなことはなく、矢張り顔貌を彩るのはいつもと変わらぬ緩い笑顔だった。普段は語呂がいいからと苗字のほうで呼んでいるというだけで、彼のフルネームはもちろん憶えている。けれど誕生日は言い当てることは叶わず、)ほんとだ、惜しかったなぁ。(はははと笑って敗北を認めるさまは清々しく。願いに関しても「いーよ」を返し、袖を引かれるままに自販機へと歩みを進めよう。並び歩く道中、横から聞こえる言葉に耳を傾けながら彼の出生へは「うーん、車の中?」と返したり、誕生日へは「残念。ヒントはー……あれ、キューバってチョコ贈る日ってある?」と返してみたり。喋っていれば自販機へと辿り着くのはきっとあっという間だった。さてなにを買おうかとラインナップを眺めていた折、聴こえた言葉に「ん?」と釣られるように彼へと眼差しを向けて。)……夏だけでいいのか?(夏の海に限らず、彼が海を見たいというならいつだって応じるつもりであるから。ゆえに口許を緩めては「いいよ、いつでも」と言い添えて、了承の意を伝えた。おのれも自販機でいつものスポーツドリンクの缶を買ったなら、広大な海を臨みながら散歩を再開しよう。)帰りはいつもこのあたりを歩いてんだ。夏は夕日がすげー綺麗でさ。(今の季節は部活終わりには既に外は暗くなってしまっているから、残念ながら夕陽を臨めないけれど。学校から駅までの道中、いつでも海が傍にあるこのロケーションが気に入っていた。ゆえに学校へ至る坂道をみとめては「ちょっと寄ってくか?」と訊ねる瞬間もあったろう。こののちも彼の意見を聞きながら、斯くて穏やかな時間は過ぎてゆくのだった。)
* 10/29(Sun) 19:54 * No.221

(海を傍らに続けられたクイズの延長戦。「はずれ。答えはね……ディスコだよ!」結果は1マル。「チョコレートを贈る日? うーん、そんな日ないけど…」それから1バツで引き分けとなる。のちに彼の誕生日を知れば、「キューバのバレンタインは花や手紙を贈るんだよ」と教えもして。──きっとこれからはチョコレートを見るたびに彼の生まれた日を思い出すことになるのだろう。だって彼の誕生日なら今からもう祝いたくてうずうずしている。ねだった望みに、頷くだけでなくより広い選択肢を与えてくれる彼のことが大好きだから。)…じゃあ冬も! 春も!(言外にこれからも会おうと思えばいつでも会えるのだと言われれば、喜びのあまり大きな胸に飛び込みたくなったものの缶を片手に突進するのはやめておいた。代わりに彼の隣で未来の光景を夢想する。)夕暮れの海かあ……きれいだろうね。この間来たときは帰りも遅くて暗かったから…(ふと眼下に横たわる広い海を眺めてみれば、あの日彼と歩いた道と同じ道なのに違って見えた。初冬の昼の海。次はどんな海を一緒に見られるだろうか。今はただ終わりが近づく寂しさよりも、未来の約束に続く明日が楽しみだった。)うん、行こう。アキラの好きなところだものね。(やがて見覚えのある坂に差しかかれば誘われるがまま進学先の候補となる地に再び足を踏み入れてもみただろうが、結局楽しくバスケをして、海を見て、おしゃべりをしてご飯を食べて。終始勧誘らしい勧誘もなく、それでいて彼とともに過ごす中で胸に渦巻くものは形を変えていった。センティミエント、サボール、スワーベ。豊かな情感が次々に。──陵南か、それ以外か。いずれにせよ、彼は乙坂のペンが調査用紙に記す名を聞きだそうとはしないだろうし、乙坂とて自ら告げはしないだろう。たとえどんな結果になったとしても、二人を繋ぐものならすぐ傍に在ると知ったから。)
* 11/5(Sun) 21:34 * No.247


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