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【5】11/30(月):夕方 第二体育館

(――喧騒から少し離れた、第二体育館の入口付近。体育館の中心から様々なところまで、この合宿に参加をしていた選手たち等、関係者と呼ぶべき顔触れが見受けられる光景は、きっと今日が最後となるだろう。それらをしっかりと目に焼き付けつつ、手にしていたオレンジジュース入りの紙コップに時折口を付ける中世古の周囲には誰の姿もなく、そうした静寂を選んだのは自らの判断だが。合宿中の期間を過ごした室内の掃除もしっかりと終えて、荷物も纏め終えたから、あとは帰路を辿るだけ。慣れたように思えるこの地域での生活も、明日からは元の生活に戻ることが決まっているから、せめて最後に合宿所敷地内を回ることくらいは許されるだろうか。誰に告げるまでもなく、ふらりと見て回る程度であれば単身でも。そんな判断は紙カップのジュースを飲み干すようにしながらの結論で、空となったそれを手にしたまま外へと向かう気にはなれなかったから、一旦はゴミ箱でもゴミ袋でも、手にしたままのゴミを捨てることが叶う場所へと足を向けることとしよう。目的を果たすことができたのなら、今度こそ足は第二体育館の外へと向けられる。一歩踏み出せば外となる頃、誰かと顔を合わせることとなるか、終わりがまだ見えないパーティーを途中で抜け出す素振り見咎められるか否か。場合によっては足を止めるに至るかもしれないけれど、大抵は会釈で切り抜けるつもりであるが。)
* 10/30(Mon) 23:52 * No.228

(祭りの後は嫌いだ。みんなで集まってパーッと騒いで、それじゃあって別れて帰る家に明かりが灯っていないのを知っているから。でも、この一ヶ月間は楽しいことの終わりが嫌でなくなった。合同練習で思いっきりバスケをして、大好きなチームメイトや他校の生徒と騒ぎながらも切磋琢磨し、皆で疲れたと言いながら銭湯に行き、風呂に入って、食堂で夕飯を食べ、それが終わっても一人じゃない。ルームメイトと一緒にアパートへ帰ることも多かったが、別々に戻る際、大抵真面目な彼の方が先に部屋に居ることが多かった。色々な相手にちょっかいを出しては諍いを起こしたりバカ騒ぎをしたりと寄り道の多い桜木は、そうして少し遅れて部屋に入る瞬間が好きだった。自分で鍵を開けなくても扉が開いて、「ただいま」という事ができる。手探りで壁からスイッチを見つけなくても、明かりはもう灯っている。それが当たり前になっていた、昨日までは。)チューセー君!(昨夜、まとめるほどの荷物もない男は彼が掃除やら整理整頓やらに精を出す間、最後の大仕事とばかりに腕を振るった。使い慣れたダイニングテーブルの上には彼の好物ばかりが並んだだろう。少々贅沢をして肉も買った。食卓を囲み終わっても、二人の間に別れの挨拶のようなものはなく、代わりにキッチンに並んで立ち、彼が洗った皿を拭いている間、桜木はいつものように調子のいいことを言ってはやたらと大きな声で笑ってばかりいた。今朝も「おはよう」と「いってらっしゃい」と「いってきます」を互いに告げて、──そして今。チームメイトに囲まれてバカ騒ぎを楽しんでいたにも関わらず、途中で抜けて体育館の外へと向かおうとする彼を追った。)待ってくれ!(そのまま帰ってしまうのではないかと思ったのだ。彼の家は此処から遠いと言っていたから。)
* 11/2(Thu) 01:13 * No.236

(特段目的としている箇所があるわけでもなく、単に最後に合宿所敷地内を回りたいと感じただけ。見咎められることがなければ幸いで、仮に呼び止める声があったとしても、説明をすることで納得を得られるだろうとの楽観的な思考もあり。体育館内の至るところで変わらず交わされるやり取りも、本日をもって見納めと理解しているからこそ名残惜しい気持ちはもちろんあるけれど。その輪の中に飛び込むような性格はしていないものだから、結局はこの距離感が最適だろうとも思うのだ。きっとそれは、学び舎を中学から高校へと変えたところで変わりようのない事実である。そうした眩しい姿に背を向けて、ひとり外へと繰り出そうとすることだって。)……桜木さん?(ただ、そうした背中へ掛ける声があれば、進みかけていた足を止めるのは道理だろう。届いた声の主が誰かなど今更考えるまでもないから、振り向きながら返す声は確かめる為というよりかは呼び止めた真意を知るがため。今日までの1ヶ月の間、一番世話になったといって過言ではない同室の先輩。「いってらっしゃい」と「いってきます」を重ねる日々を過ごしていながら、明確な別れの言葉を告げていなかったことを咎められるのならば仕方がないとは思いつつも。きっとそういう意図で呼び止めることは、彼に関してはないように思えるから。止めた足と、身体は彼へとまっすぐに向いた状態で。)お疲れさまです。――どうしたんですか?(記憶が誤っていないのならば、彼はまさしく同校の顔触れと楽しそうに過ごしていたような。この合宿中にすっかり見慣れた光景を覚えているからこそ、尋ねる言葉は不思議そうな色を湛えていただろう。一体どうして、おのれなんぞに声を掛けたのだろうか、と。)
* 11/4(Sat) 00:45 * No.240

(振り返る彼があまりにも身軽だと気づいたのは咄嗟に声をかけてのち。挨拶の音は軽く、続く言葉も純粋な疑問といった風で、どうして声をかけられたのか彼は皆目見当がついていないようだった。)だ、だって。チューセー君がもう帰ろうとして……ると、思って。(ゆえに自分の早合点かもしれないと気づけば言いよどむも、結局そんな誤解すら素直にこぼして。)…オレになんも言わねーで。(ついでに拗ねたような本音もぽろり。別に今生の別れでもあるまいし、泣いて縋って欲しいとは思っていないがそれでも何かこう、本当に最後の最後ならそれらしい言葉の一つや二つあってもいいだろうと思ってしまう。存外センチメンタルな男なのだ。)どっか行こうとしてんなら、オレも行く。(それからじ、と彼を見つめて告げたのは、提案ではなく決定事項。自由気ままな桜木の言動などチームメイトたちも慣れたもので、ほとんど飛び出すように賑やかな輪から外れたのだって気にしてはいないだろう。そして飛び出した桜木の行方が暫く分からずとも、しっかり者の彼と一緒なら心配も要らないと思われているに違いない。いつもはくるくると変わる表情が、今だけはやけに静かだった。)
* 11/4(Sat) 22:05 * No.243

(抱いた疑問に対する答えはすぐにから紡がれたものだから、「ああ」と納得したように頷きをひとつ。喧騒へ背を向けたことは確かだし、合宿所を後にする時間が近付いていることも確かだけれど。)帰りませんよ。あ、帰りはするんですけど……見て回っておこうと思って。ぐるりと一周。(流石に一番世話になったと言える相手に対し、何の挨拶もなしに別れる選択肢はおのれの中に存在しなかったから。「あとでご挨拶に行くつもりだったんですよ」と続けた言葉を、彼がどのように受け止めてくれるかはわからないけれど。)でも付き合ってくれるなら丁度良かった。散歩しましょうか、最後にすこしだけ。(言いながら指で示すのはテニスコートやシャワー棟等が並ぶ道の先。駐車場を右手に進んでいけば、その先にふたりで1ヶ月を共にしたアパートが在ることは彼も知るところだろうから、“ぐるりと一周”から目的をアパートへと定めたのは、最後に彼と時間を共有する機会を得ることが出来たからにほかならない。何せ、挨拶といっても一言程度で終わるだろうと思っていたのだ。彼の周りにはいつだって人が居ると知っていたし、そうあることが当たり前だと納得する合宿期間中でもあったから。彼と笑い合っていた様子の湘北の先輩方にこそ、最後にしっかり挨拶をするべきであったかもしれないとは、今更かもしれない。)
* 11/4(Sat) 23:59 * No.244

そーだったんか……。(誤解をきっぱり否定されればほっとして、ついで挨拶の予定もあったと知れば不義理を詰るような物言いをしてしまったことを後悔した。それでも彼は淡々と、桜木の一人相撲を笑うでもなく呆れるでもなく受け止め頷いてくれたので、)…おう。(体育館シューズからスニーカーに履き替えれば、提案通り彼の散歩とやらについて行く。照明の下の喧騒から離れ、道なりに幾つか並ぶ外灯が頼りの暗闇の中へ。もうこの時期は日暮れが早く、あっという間に夜になる。)オレ、てっきりチューセー君は湘北じゃねーとこ選んだから、オレと顔合わせづれーのかもって……だから何も言わねーで帰っちまうんかなって……。(彼と並んで歩くのはもう何度目か。いつもは気づくと彼を置いていきそうになるのだが、今日はゆったりとした足取りで行くのは「最後」の「すこし」を先延ばしにしたいから。歩調に合わせるようにぽつぽつと落とした本音は、また桜木の早合点だろうか。ズボンのポケットに手を突っ込みながら、うつむき加減に歩く姿はしょんぼりと。律義な彼は最後の挨拶をしてくれるつもりだったと言っていたけれど、「最後」って言うのは、果たしてどういう意味の最後だろうか。)
* 11/5(Sun) 16:58 * No.246

(彼の同意を得られたのなら、体育館内と異なり静寂広がる道へ向かって踏み出そう。ひとりであれば暗闇の中を歩むことに躊躇いを覚えたかもしれないけれど、今はもうひとり、明るい赤が共に在るので。)湘北の人達と楽しそうにしてたから、邪魔しちゃいけないと思って。合宿所を見て回ってから、最後にご挨拶するつもりではいたんですよ。(それまで彼が残っているかどうかは定かではないけれど、その場合は手紙程度ならばしたためたかもしれない。けれどこうして、顔を合わせて直接言葉を交わす機会を得ることが出来たからには、この瞬間を大切にしよう。彼と歩調を合わせるように――平素であればコンパスの差がそれなりにあるものだから、彼の歩調に合わせるには些かの早足としていたけれど。今この時ばかりは寧ろおのれの方が速く感じるから、彼と隣り合うように緩めるのだ。)桜木さん、合宿楽しかったですか?(隣を歩き、低い位置から彼を見上げるようにしながら。既に荷造りを終えた中で、鞄に入りきらなかった黒い毛玉は電車に揺られる中でおのれの腕に抱かれる予定で。故に今は“一匹”でアパートの椅子にちょこんと腰を下ろしているに違いない。ご利益とあわせての答え合わせは、今か、それとも後日とするべきか。)
* 11/6(Mon) 19:02 * No.250

チューセー君はジャマなんかじゃねー! …けど、(自分本位な幼い男は後回しにされたと感じたけれど、実際は自分への気遣いだったわけで。確かに彼にそうした生真面目さと空気を読むことに長けたところがあるのは知っていたので、それが調子のいい方便ではないことに安堵して、)……そっか。(一番の不安がうまく誤魔化されて話題の外に置かれてしまったことには気づかなかった。そして静かな足音の合間を埋めるようにもたらされた新たな問いに)楽しかった!(食い気味に答える勢いの良さはもはや反射に近かった。見上げる彼の視線に己のそれを重ねてにかっと笑えば、)毎日思いっきりバスケできたし、いろんな奴と戦えたし、チューセー君と一緒に住むのも面白かったし、あと肉も食えたし…(この一月を振り返り、思いつく限りの楽しかった思い出を連ねていく。その幾つかは彼の記憶と重なるはずで。)チューセー君も合宿、楽しかっただろ。(それから同じ問いを口にする代わりに、ちゃんと知ってるんだぞと呟いた。根拠は自分が楽しかったのだから彼もそうに決まっている、という傲慢な思い込みだけではない。薄明りに照らされたその猫のような目が、喜びとともにやわく細められるのを何度も見たのだ。一番近くで。)
* 11/7(Tue) 13:03 * No.251

(彼の言葉はいつだって真っ直ぐに届くから、紡がれた言葉には小さく笑って返すこととなるだろう。“邪魔”との言葉は流石に強い言葉が過ぎたかもしれないけれど、湘北という絆の中に飛び込むことが出来ない気持ちも理解してもらえるだろうと思うから。あとで、と一言を後回しにするのではなく、先んじて挨拶を告げるべきであったかもしれないとは今更の後悔だが――先に挨拶を終えてしまっていたとして、今この瞬間は訪れていなかったに違いない。もう少し、に甘えることが出来るのは、体育館を後にするおのれに彼が気付いてくれたからに他ならないから。)俺も、桜木さんの料理食べるの好きでしたよ。誰かの手料理って、家族くらいしか経験なかったから。楽しかったし、うれしかったです。(誰かと食事を共にすることこそ経験は多々あれど、手料理となれば話は別である。店で出される料理とも違う、時折顔を出す彼の人柄による料理が好きだった。この合宿に参加をすることがなかったのなら、決して味わうことの出来なかったであろう経験は、アパートのあの一室だけでも様々に。「うん、」彼の言葉に肯定を返すのだって当然で、知られていると理解しているのだってまた当然だ。彼が楽しんでいたということも、しっかりと知っている。おのれにとっての一番近くは、まさしく彼であった。)
* 11/7(Tue) 21:02 * No.257

おう。オレもチューセー君と飯食うの楽しかった。いつもうまいって言ってくれるし、皿も洗ってくれるしな……あ、家に帰ったらちゃんと合宿の成果を親御さんたちに見せてやれよ。(『皿洗いの天才』をはじめ、『米炊きの天才』に『野菜の皮むきの天才』、『戸締りの天才』などなど様々な称号を彼に授けてやったことを思い出せば、少し気分が上向いた。少しずつ、歩調も明るく大きなものに。するとあっという間にアパートはすぐ目の前に迫るのだ。初めて彼と出会った日を再現するように、二人して階段を上り、鍵を開けて部屋に入る。あの日と違うのは終わりのためにそうするということだけで。)……たでーま。(パチン、と手探りですぐに見つかる壁のスイッチを押せば電気がついて、照らされた部屋は初めて見た時と同じはずなのに随分がらんとして見えた。)あ、(そんな中、椅子の上で留守番していた黒猫を見つければそっと手に取って、)……、(一度ぎゅっと胸に抱いてから、「ほらよ」と彼に差し出した。)センベツに天才の念を込めといてやったからご利益が1031倍になったぜ。(なんて、思い出した不安の種をもう一度口にするかしないか迷った末に飲み込めば、代わりに冗談めかした笑いがこぼれた。)
* 11/7(Tue) 23:42 * No.258

作っていただいてたので、洗うくらいなら全然。帰ったら驚かれるとは思いますけど、バスケの合宿に行ったんじゃないの?って聞かれるかも。(主としていたのは勿論バスケットボールに向き合う為の時間であったとはいえ、室内で何度となく行われた皿洗いに米炊き、野菜の皮むきに戸締り――彼との生活でなければ培うことのなかったであろう経験は、本来の生活に戻った際にも遺憾なく発揮されるに違いないから。まず最初に家族へとお披露目となるのは、どの称号となるだろう。慣れた足取りで辿るアパートへの道も、今日が最後となれば感慨深いところもあって。開かれた扉の先、中へと足を踏み入れれば。)おかえりなさい?(どちらかといえば、同じく“ただいま”を重ねるべきであったかもしれないけれど。彼の方が後に戻った際には同様の挨拶をこちらから投げて、その逆もまた然り。そんな1ヶ月を過ごしてきたものだから、もはや慣れのままに紡がれた言葉と受け止めてもらえるのなら幸いだと。この1ヶ月を過ごした部屋も、既に荷物の整理が終えられたとなれば何処となく空白が見えるような。残されたのは留守番を頼んだぬいぐるみと、纏まった荷物くらい。)――ありがとうございます。溢れちゃいそうですね、ご利益。収まりきらなさそうだ。(あの時と同じように、差し出されたぬいぐるみを受け取ったのならば笑みをひとつ。このぬいぐるみに収まりきらない程のご利益ごと、しっかり腕に抱き締めよう。)
* 11/8(Wed) 01:25 * No.261

…へへ。(背後から聞こえる「おかえり」は初めてだったけれど、呟いた挨拶がしんとした部屋に吸い込まれて消えてしまわなかったのは嬉しかった。もう、このやりとりも最後なのだなと思えばこそ。)はっはっはっ、この天才のパワーはスゲーからな。ほらチューセー君、今なら大抵の願いは叶うぞ! 試しになんか言ってみろ!(そして手渡したぬいぐるみが彼の腕の中に収まれば、つい先日の光景がよみがえる。楽しかった記憶を思い出すほどに妙に沈黙を恐れて声が大きくなった。──最後の挨拶をと二人きりになったはいいが、さて、どうしたものか。このまま部屋で時間いっぱい過ごすのがいいか、それとも荷物を持って散歩でもすべきか、彼を駅まで送り届けるか、いっそ彼を家に持ち帰って湘北の子にしてしまうというのは? 迷走を極めた脳はもともと深く考え続けるということに向いていないので、結局彼の望みを聞くことにして。いずれにせよ、残された時間は限られていた。)
* 11/8(Wed) 22:23 * No.262

(そうした欲に乏しい自覚はあるものだから、願いと言われて咄嗟に浮かんだのはおのれのことというよりも、寧ろ。目の前の彼のことであったから、)――桜木さんがこの先、怪我なくバスケを続けられますように。(彼の身に降り掛かったことを知っている。この合宿期間中、彼の周囲の人間が彼に対して見せた態度を知っている。リハビリに費やした時間も少なくないだろうし、同時に憂いたこととてあっただろうと感じさせるには、彼が負った怪我は小さくないものだったに違いないから。そうした憂いが、この太陽みたいな“先輩”に二度と翳りを齎さないように。おのれ一人の願いでは足りないかもしれないけれど、1031倍のご利益のある今であれば、きっと願いは届くに違いない。やわく綻んだ表情が、彼にとってのさいわいとなれば良いのだけれど。)俺も、怪我も病気もしないようにするので。桜木さんも、春まで健康で居てくださいね。春から先は、俺が目を光らせられますから。(――なんて。些か後輩の本分を外れている気がしなくもないけれど、ここまで告げればおのれの希望進路は明らかだろう。敢えて全てを伝えることこそしないから、「駅まで歩きませんか」と誘う声はこちらから。更なる“もうすこし”を願うのだって、ご利益に甘えてしまうとしよう。)
* 11/9(Thu) 19:24 * No.265

──へ?(思わず間抜けな声がこぼれたのも仕方ないだろう。彼の願い事は想定の斜め上どころか一生交わらない点Aと点Xくらい離れていて、初詣で世界平和を願うような輩と出会ったときのような驚きがあったのだから。ぱちくりと大袈裟な瞬きに一秒費やし、それからようやく彼の意図を理解すれば広いばかりの真っ白な部屋を思い出した。静寂と孤独に満ちたベッドの上で焦りと不安を醸成させた長い日々を。すると胸に込み上げてくる思いがやさしい眼差しに導かれるように喉奥までせり上がり、)……ちゅーせーくん、(それからじわ、と視界が濡れた。真摯に紡ぐのが他でもない彼だからこそ、気の利いたおべっかなどではなく心底桜木の身を案じてくれているのだとわかり、)ふぬ……(感動の端っこは弱弱しい呻きとなって口からこぼれ、続く彼の告白がなければ大泣きの始まりとなったことだろう。)…? ……それって、もしかして……(しかし「春まで」という言葉の意味を自分の都合のいいように解釈すれば涙も引っ込む。いつものように大口と胸を叩いて笑う間もなく、期待の続きを紡ぐより先に彼の誘いを受けたなら、)お、おう。(潤んだ目はそのままにこくりと頷き、今度こそこの部屋に別れを告げるのだ。互いに荷物を手に取り、最後の施錠は彼に任せて。──そして駅へ向かう道を行きながら、)チューセー君、さっき春から目光らせるっつってたけど、気になるんならいつだってこの天才のケンザイを確認していーんだぞ。(呟くように告げたのは男の願いだ。とはいえわざわざ湘北まで足を運べと言うのではない。ただ、頻繁に顔を合わせることは難しくとも声を聞くくらいならできるだろう。春まで待たずとも、二人を結ぶとある紙を彼は持っているのだから。)
* 11/10(Fri) 01:22 * No.267

(彼の反応を目にする限り、正しく意味は伝わったように思えるけれど。それ以上を紡ぐことは、今はまだ良しとしないから。)詳しい話は内緒です。(悪戯めかした言葉に逃げるが勝ち。そうして最後の施錠を任されたのなら、彼の後に続くようにして、この1ヶ月を共に過ごした部屋の扉、鍵穴へとおのれの鍵を差し入れた。カチャリ。無事に鍵のかかった音が耳へと届いたのなら、今度こそ思い残すことはなくなったと言って過言ではないだろう。)え?……そっか。そうですね。じゃあ……水戸さんとかに、偶に聞いちゃおうかな。桜木さんが元気にバスケ、してるかどうか。ちゃんと教えてくれそうですし。(彼自身に尋ねることが出来ることもしっかりと理解をしている中で、敢えて異なる相手――彼を通して知り合うことの叶った、バスケ部とは異なる先輩たちの顔を思い浮かべながら。彼はいつだって、誰より明るい姿を見せてくれはするけれど。それはきっと、おのれが後輩の立場に甘んじるしかないからだと、この合宿期間で納得した気がするのだ。どうしたって立ちはだかる高校生と中学生との立場が、せめて同じ高校生の立場に変わるまでの間くらいは。弱みを見せてくれることのないであろう彼の、そうした部分を明らかとすることの出来る彼らに、その役割を任せたところで罰は当たるまい。いつかその立ち位置がおのれのものになれば良いとは、多少なりとも“ご利益”が余っているとして、かける願いであったかもしれないけれど。)桜木さんも、確認していいですよ。俺のケンザイ。(湘北の校門前におのれの姿が在るのが先か、その逆が先か。――目立つ人だから、きっとすぐに話はおのれの所に届くに違いない。次に笑い合うことの出来る日まで、きっと、そう遠くはないだろう。)
* 11/12(Sun) 00:51 * No.270

む。…ナイショ……(傍目にはいつも桜木に振り回されているようでいて、その実人に流されることのない彼は一度口にしたことを簡単に撤回したりはしないだろう。ゆえに本当なら襟首を掴んでゆすぶってでも詳しい話を聞きたかったが、落ち着かない唇も最終的には放置して。彼が意外に頑固なことは知っている。真面目そうな顔をして、たまに悪戯っ子のように笑っているのも。)なっ! なんでそこでよーへーなんだ!!(例えばこんな風に、桜木が取り乱すのを知っていて予想外の返答をする。もちろん彼のことだから単なる嫌がらせの類ではないのだろうが、せっかく勇気を出したというのに、と恨めしい気持ちで睨みつける男の幼さを彼はいつもの苦笑で流すだろうか。その胸中にどんな思惑を隠しているのか、生憎と桜木の頭では推し量ることなどできやしないので、)ぬ。……天才のご利益が込められたその毛玉があるかぎり、チューセー君のケンザイはカクヤクされたも同然だが……まあ、チューセー君がどうしてもって言うなら確認してやらんでもない。(彼に会いに行く口実を与えられても拗ねた唇はそのままに。ただ僅かに声のトーンは明るくなって、「ど、どーしてもって言うならだけどな!」「湘北の未来を担うキーマン桜木、そうそうヒマはできねーだろうが」云々と、よく喋るのは機嫌が直った証拠だった。そうしてべらべらと他愛ない未来の話の合間に小さな約束を混ぜ込めば、回青中の校門前で目立つ赤頭が発見されるのはそう遠くない話――どころか、ほんの10日後。気の早い歓迎会は来春を待たずしてすみやかに、そして賑やかに行われるに違いない。)
* 11/12(Sun) 23:56 * No.272


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