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【Epilogue】12/10(木):夜 自宅
(進学先が決まった。希望が外れたらという不安はなかったが結果を待ち望む気持ちはあって、無事に部長ともども陵南高校へ入学できると知れば大いに喜び、今後ともよろしくと握手を交わしたのが本日のハイライト。入学案内やら進学に伴う書類やら、小難しい手続きの話は早速彼に頼ることにしたら少しは自分で努力しろと怒られたのも。その後、夜は自宅でささやかな祝いのパーティーを。食べ盛りの乙坂の帰宅を喜んだ家政婦が連日はりきって腕を振るうなか、今日は一段と気合が入っているようで、鯛がまるまる一匹皿の上に。なんでも日本ではめでたいことがあると鯛を食べるらしい。母親は光を失った大きな白い瞳をグロテスクだと言っていたが、ぎょっとしたのもはじめだけ。息子が美味しそうに魚を食べるのにつられ、いつもの賑やかな団欒を取り戻すのにそう時間はかからなかった。仕事で家を空けることの多い父とはなかなか顔を合わせることができないけれど、久しぶりの我が家は此処にしかない居心地の良さがある。)……あのタイノオカシラツキって魚、アキラも食べたことあるのかな?(それでもふと、途絶えぬ習慣が独り言となって現れる夜がある。魚が美味しいと彼を思い出し、その話がしたくなる。当然一つだけしかないベッドに腰を下せば、元ルームメイトを思い浮かべて。)アキラ、おれがリョーナンに行くこともう知ってるかな?(他愛ない事を伝えるために彼の名を幾度となく呼んだ日々は乙坂の口癖を一つ増やして、それは合宿が終わった今も消えないでいる。進学先を教えられた時も真っ先に彼に伝えたいと思ったが、よくよく考えたら連絡先の一つも知らなかった。)うーん、リョーナンに行けば会えるかなあ。(確か練習の見学ができるとかどうとか、日中耳にした説明の中で興味深い点だけを記憶した脳が彼に会う最短ルートを教えてくれる。「明日レージに聞いてみよう」だから今は無力にもベッドにごろりと横たわるほかなく、お気に入りのCDを聞いているうちに微睡み、──夢の中で海を見た。日本の海ではなく、キューバの海。カリブ海の光景だ。かの文豪が愛したという美しいビーチはポストカードとなって自室のコルクボードに貼られている。合宿にも持って行ったその一枚は彼に見せたこともあったはず。)……そうだ、海。海に行けば、会えるかも。(連絡先は知らないけれど、仙道彰のことならよく知っている。運が良ければ会えるだろうし、会えないなら会えないでも構わない。彼を思って海に行き、けれど会えなかったのだと次に会った時に話すことが一つ増えるだけなのだから。)うん。(ならば行ってみようか。青の色の濃い冬の海に。)
* 11/19(Sun) 19:11 * No.275
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